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Review: Rosas: Zeitung @ 彩の国さいたま芸術劇場大ホール (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2009/11/29
彩の国さいたま芸術劇場大ホール
2009/11/28. 16:00-18:00.
Concept: Anne Teresa De Keersmaeker, Alain Franco. Choreography: Anne Teresa De Keersmaeker. Piano: Alain Franco. Music composed by J. S. Bach, A. Webern, A. Schönberg. Set and Light design: Jan Joris Lamers.
Danced by: Bostjan Antoncic, Tale Dolven, Fumiyo Ikeda, Mark Lorimer, Moya Michael, Elizaveta Penkóva, Igor Shyshko, Sandy Williams, Sue-Yeon Youn.
Creation: 2008.

観るのももう何回目になるだろうか、という、ベルギーのダンスカンパニー Rosas の日本公演。 といっても、 Raga for the Rainy Season / A Love Supreme (2005) を演った前回2007年来日は観なかったので、 2005年に観た Bitches Brew / Tacoma Narrows (2003) 以来、久しぶりだ。 最近は再び Steve Reich を使ったりしているようで、今回の選曲も classical music からのもの。 以前のような作風戻ったかのかもしれないなどと考えながら臨んだ。 しかし、実際に観た印象は、4年前の Bitches Brew / Tacoma Narrows [レビュー] に近いものだった。

舞台の上は、左奥にピアノが置かれた他は、 方形の踊るスペースを示す程度にマットが引かれ仮設のようなパネルが5枚立てられ、 椅子が数脚置かれただけ、舞台袖や舞台裏はほとんどむき出し。 舞台照明の白い明るいライティングと蛍光灯を使った青白い暗いライティングを切り替えて、 舞台の雰囲気を大きく変えていたのが印象に残った。

Zeitung で使われた音楽は、 18世紀ドイツのバロック音楽の作曲家 J. S. Bach と 十二音技法で知られる20世紀初頭のオーストラリアの作曲家 A. Schönberg と A. Webern。 といっても、中心となるのは Webern、それも、彼が編曲した J. S. Bach: Fuga (Ricercata) a 6 voci だ。 Bach の曲は Webern が Ricercata を 編曲したのに倣って使われているかのようであり、 Schönberg は Bach と Webern を結ぶ補助線といった感じだ。 作品コンセプトに寄与した Alain Franco が piano 奏者としても参加しているので、 彼の演奏のみで展開するのかと思っていたが、Webern の曲を中心に録音も多く使われた。 ちなみに Webern の曲の多くは、 Pierre Boulez: Complete Webern (Deutsche Grammophon, 457 637-2, 2000, 6CD+book box set) に収録されたものが使われていた。

冒頭で Bach の Ricercata が弾かれそのテーマが示された後、 暫く Webern のオーケストラ曲に合わせてソロやデュオで踊る展開が続く。 そして中盤に近づくにつれてオーケストラ曲ではなく Bach の曲のピアノのみの演奏が多くなり、 その一方で踊るダンサーの数が増えて行く。 特に、Bach の曲のピアノ伴奏に合わせて男性ダンサー4人が踊るシーンが中盤に2回程あり、 そのダイナミックな舞台にいささか眠気を催していた状態から揺り起こされたりもした。 そして、この展開から、Webern が Bach の曲をオーケストラ編曲にしたのに倣って、 Rosas も Bach の曲をダンスで「オーケストラ編曲」しているのではないかと気付かされた。 そして、終わり近く、Bach の曲続きから Schönberg の曲を経て Webern 編曲の Ricercata でクライマックスを迎えるというという。 この終わり近くでは全員による群舞も見せた。

しかし、Webern に倣って piano 伴奏を核にダンスで「編曲」していたとしても、 ダンスに即興的要素が多くいれられているだけに、 構築的なオーケストラとはちょっとズレているような印象も受けた。 そんなこともあって、なんとなく判らないでもない展開なのだけど、 そこがツボにハマって面白いという感じにならない、 観ていて微妙な不完全燃焼感の残る舞台だった。

結局のところ、 Bitches Brew / Tacoma Narrows の時もそうだったが、全体の構成演出よりも個々のダンサーの方が楽しめたように思う。 といっても、民俗舞踊や武術のような動きを感じるようなこともなく、 足先指先で線を作るような動き、バランスを崩したような体勢から動き出す所、 舞台を歩いたり走ったりする様子など、いかにも Rosas と思うような動きなのだが。 男性ダンサーでは Mark Lorimer が印象に残った。 Bitches Brew / Tacoma Narrows にも出ていた Igor Shyshko もそうだが、少々神経質そうな感じが Rosas の動きに合っていたように思う。 女性ダンサーでは Sue-Yeon Youn の東洋人らしい可愛らしさが目にとまった。 初演時の Cynthia Loemij の代わりだったようだが、 エンディングの Webern: In Sommerwind でのソロなど、 重要な所でダンスを見せていた。

2時間という長さの中には退屈に感じた時間もあったので、 いっそのこと、Bach を「オーケストラ編曲」する部分を外して、 Pierre Boulez: Complete Webern の録音だけを使って少人数のダンスをコンパクトにまとめていたら、 スタイリッシュな舞台が楽しめたかもしれない、とも思ってしまった。

Rosas から話が外れる余談だが、 Webern による Bach の Ricercata 編曲を ネタにした作品として、ダンスではないが、 Christoph Poppen / Münchner Kammerorchester / The Hilliard Ensemble: Bach / Webern: Ricercar (ECM New Series, 1774, 2003, CD) というCDもある。このCDでは、 Webern 編曲の Ricercata を最初と最後に起き、 その間で Webern と Bach の曲を収録している。