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Review: Hotel Modern: Kamp @ スパイラルホール (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/02/21
スパイラルホール
2010/02/20. 19:00-20:00.
Makers and Performers: Herman Helle, Pauline Kalker, Ariène Hoornweg. Sound Design: Ruud van der Pluijm. Model and Puppet Design: Herman Helle.
Premier: 2005.

人形を使った舞台作りで知られるオランダ (der Nederlands) のカンパニー Hotel Modern の日本初公演上演作品 Kamp は、 第二次世界大戦時の強制収容所を扱った作品だ。 それも、強制収容所内の人間ドラマを描くのではなく、 中で起きたと考えられる事をシステムとして淡々と描く舞台作品だった。

15m四方ほどの舞台いっぱいに Auschwitz-Birkenau 強制収容所の1/35〜50程度の 縮尺模型のジオラマが作られ、その上でパフォーマンスが繰り広げられた。 また、建築物の縮尺模型と比べ、人形の造形は抽象化されたものだった。 セリフもナレーションも使わないそのパフォーマンスは、人形劇というより 博物館のジオラマ展示のようであり、 人形の配置を変えて動かすことにより中で起きたと考えられることを説明していくようであった。 また、客席からの俯瞰的な視点だけでなく、 小型CCDカメラを使い収容者に近い視点からの映像を投影することにより、 そんなマクロなシステムが内部からどう見えるか重ねて示しているのも興味深かった。 全体として淡々と描かれる中、一カ所だけ看守が収容者を撲殺するシーンがあり、 ガス室の様子を示す場面よりも、その暴力衝動が強く浮き上がるように感じられた。

このカンパニーはアニメーションも制作しており、 こういうシステムを示すのであれば、 ライブでなく長編のパペットアニメーションとして制作するという選択肢もありうるようにも感じられた。 起きた事をライヴで観ることに意義があるとはアフタートークで言っていたが、 それについて作品から強い説得力を感じなかった。 むしろ、15m四方大のジオラマのスケール感や、照明を落としての夜景の風景に、 アニメーションには無いものを感じたように思う。

この舞台を観てアニメーションのことが頭に浮かんだのは、先日、 William Kentridge の展覧会 [レビュー] を観たということもあるように思う。 状況を即物的に描いている所も含め、 この舞台作品もマジックリアリズムに近い表現と感じた。

ところで、Hotel Modern は、Kamp に先立ち、 同様の縮尺模型と小型CCDカメラを使った人形劇として第一次世界大戦を描いた The Great War (2000) を制作している。スチルやビデオを見る限り、ミニタリー・ミニチュア模型を思わせ、 主題と手法が巧くはまっているように感じられる。次はこちらを是非観てみたい。