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Review: Corpus: Moutons @ 東京芸術劇場ロワー広場 (パフォーマンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/08/15
東京芸術劇場ロワー広場
2010/8/14, 18:00-18:30.
Artistic director: David Danzon. Choreography: David Danzon and Sylvie Bouchar.
Performers: David Danzon, Anika Johnson, Emily Poirier, Christian Feliciano, 二宮 恵子 [Keiko Ninomiya].

Corpus はダンスともマイムともいえるようなコミカルなフィジカル・シアターを演じる カナダ・オンタリオ州トロント (Toronto, ON, CA) のカンパニーだ。 そんな彼らのハプニングや大道芸の要素もある野外パフォーマンス Les Moutons が、国際自動青少年芸術フェスティバル タクト フェスティバル 2010 のプログラムの一つとなって来日した。 2006年の来日公演 [レビュー] の際にビデオで観て気になっていた作品だが、 その期待を裏切らない面白いパフォーマンスを体験することができた。

David Danzon 演じる羊飼いと残り4人のパフォーマーが演じる羊4匹によるパフォーマンスが、 高さ1程の木製の柵に囲まれた5m四方の人工芝のエリアを中心に繰り広げられた。 ヒツジを擬人化して人間的なドラマを演じるようなことは全く無く、起承転結らしきものは無し。 さすがに4つ足になることまではしないが、 囲いから少し離れた小ホール入口から現れ、囲いの中に追い込まれ、 毛を刈られ、餌を食べ、排泄をし、交尾をし、 オオカミ (羊飼いを演じる Danzon が柱の陰で着替えて演じた) に襲われ、 再び囲いをでて小ホールへ去って行く。 その間、いっさいセリフを使わず、4人はヒツジらしい仕草を演じ続けていた。

さすがに四つ足にはなっていなかったが、背中を丸めて前足のように手を下に垂らして、 ヒツジらしく無表情に身を震わせたり舌なめずりしたりとヒツジらしい仕草を演じを演じていた。 脈略なく食事や排泄、交尾を始める様子は、 飼育されている動物をそのまま観ていればそんなものだろうと思う程度だろう。 しかし、美味しいとか気持ちよいとかそういう感情を表現するような 人間的な表情や仕草を排し、ヒツジらしい仕草のみを使い、人がヒツジを演じることにより、 その動きに感情的心理的な脈略が感じらないところが、かなり不条理に感じられる。 そしてこの不条理感がこのパフォーマンスの一番の面白さだ。

なかなか囲いの中に入ろうとしない雄ヒツジを羊飼いがなんとか柵に入れようとしたり、 オオカミに襲われ囲いからヒツジが逃げ出したり、と、 それなりに動きもあり観客との絡みも大きく判り易く楽しめる場面も確かに織り込まれている。 子供からヒツジに餌を与えさせたり、絞った乳を観客にふるまったりという、 観客との絡みを取入れた演出も考えられていた。 しかし、それにしても、人間的な感情表現は全く用いられず、 エンターテインメント的に判り易く笑わせ楽しませるような演出が避けられていたのも、良かった。 おおいに場を盛り上げるようなパフォーマンスではないが、 何が起きるんだろうと見続けたくなるような、そして時々の仕草に不条理な笑いを誘われるような、 そんなパフォーマンスが楽しめた。