クワクボリョウタは1990年代後半から活動する美術作家。 明和電機と共作した「ビットマン」 (1998) をはじめ、 電子部品を使ったガジェット的な作品やインスタレーションを得意としてる。 NTT ICC の2010年度の無料展示『オープン・スペース』中の一つとして展示されている 彼の新作は、少々作風が変わり、よりアナログなもの。 動く光源によりギャラリーの壁面・全体に影を投影するインスタレーションだが、 列車の車窓の風景を思わせる影とその動きという題材と、 赤みがかった柔らかい光の作りだす影の雰囲気もマッチした作品だ。
照明を落とした暗いギャラリーの床に鉄道模型のジオラマが設置され、 光源を載せた一両編成の車両がレールの上をゆっくり走っていく。 ジオラマは直接見てリアルと感じるように作られたものではなく、むしろ光源が作る影を意識したもの。 ジオラマ用の人形模型等のあったようには思うが、むしろ、日用品を建物等に見立てたものが多かった。 レールの上を走る車両の光源がレール脇に置かれた様々なオブジェに当たり、 大きくゆっくり動く影を壁に映し出していく。 それが、鉄道列車の車窓の風景を撮影した退色した荒いモノクロ映画か、 それを模した影絵アニメーションを観ているようだった。
立てて並べられた洗濯バサミとその上を渡された糸 (もしくは針金) は 線路の上を越えていく送電線のような影を作り出し、 ミシン用ボビンの作る影には、フランスを鉄道旅行した際に見た 遠くまで広がる牧草地に転がるロールベール (牧草のロール) を思い出した。 また、トンネルを走り抜ける所では、所々に設けられたスリットが作る光の輪の動きが、 トンネル中を進んでいく様をギャラリー中に描き出していた。
車窓の風景を思わせる動く影は、その色彩感の無さもあって、感傷的に感じるものだった。 しかし、コントラストが強かったりフラッシュのように明暗が変化する どぎつく刺激的な映像が使われがちなだけに、 このようなじんわりくるような光と影を巧く使ったインスタレーションも良い。 このじんわり感、ゆったり感を絶妙にコントロールするセンスは、 クワクボリョウタならではだろう [関連レビュー]。