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Review: Héla Fattoumi & Eric Lamoureux: Manta @ 青山円形劇場 (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2011/09/13
Héla Fattoumi & Eric Lamoureux
Manta
青山円形劇場
2011/09/13. 19:00-20:30.
Choréographie: Héla Fattoumi & Eric Lamoureux. Interprétation: Héla Fattoumi. Création sonore et vidéo: Eric Lamoureux.
Production: CCNC/BN (Centre Choréographique National de Cean / Basse-Normandie), 2009.

フランス・バス=ノルマンディー地方のカーン (Caen, Basse-Normandie, FR) の 国立振付センター CCNC/BN のディレクターとして活動する Fattoumi & Lamoureux による ヒジャーブ (イスラームの女性の着る目元以外頭から足元まで覆うような服) をテーマとした作品だ。タイトルは「ヒジャーブ」ではなく、そのフランス語での呼称「マント」になっているが。 踊るのは北アフリカ・チュニジア (Tunisia) 出身の女性である Fattoumi 一人だ。

作品の頭の方で、ヒジャーブの根拠とされるコーランの節が5カ所ばかり、英訳でプロジェクタ投影される。 そして、前半から中盤にかけて、白いヒジャーブにすっぽり身を包んだ Fattoumi がパフォーマンスした。 しかし、それはイスラーム的な文化的背景を意識したものというより、 布を被って動くことの造形的面白さ、特にたっぷりとした布が作り出すドレープや、 その下での身体の動きが作り出す布のゆらめきを見せるようなパフォーマンスだった。 序盤の静な動きには少々退屈したところもあったが。 布を畳むパフォーマンスでのバタバタとした布とヒジャーブの動きや、 軽いヒジャーブに着替えて縄跳びする場面でのふわふわと揺らめくヒジャーブ、 そして、強烈なバックライトを背景に大の字の広げて震える身体のシルエットを ゆらめき光るヒジャーブの中に浮かび上がらせた場面など、印象に残った。 本来、女性の身体の線を隠すものであるはずのヒジャーブが身体の線を浮かび上がらせるという所も 面白かった。

そして、ラスト近くで、ヒジャーブを脱ぎ捨て、ヒールにGパン、赤い透けたブラウスに着替えて、 James Brown の “It's Man's World” を歌う時には、 この作品におけるヒジャーブは、その造形の面白さや美しさを楽しむものから、 男社会における女性の象徴とでもいったものとなっていく。 終わりにこれを持ってくるということでヒジャーブへの批判的な面が強く印象に残ったが、 その一方でヒジャーブを被っての動きをシンプルに楽しむような面もある、 ヒジャーブに対するアンビヴァレンスを感じた作品だった。

ちなみに、この作品、というか、Fattoumi & Lamoureux に興味を持ったのは、 今年の新作として、モロッコ出身でフランスで活動する女性の現代美術作家 Majida Khattari とコラボレーションしたパフォーマンス作品 Lost In Burqa を制作しているから。 Khattari は『パサージュ:フランスの新しい美術』展 (世田谷美術館, 1999) での作品が 強く印象に残っている [レビュー]。 そのファッションショーを擬したパフォーマンス作品は、 フランスにおいてアラブ系/イスラームであることとアラブ/イスラームの社会で女性であることの問題を扱ったもので、 今回観た Manta とテーマ上の共通点が多い。 新作 Lost In Burqa も ブルカ (イスラームの女性が着るヒジャーブ同様身体を隠す服) をテーマとしている。 Khattari の最近の作品の写真を公式サイトで見ても相変わらずのよう。 Lost In Burqa はもちろん、 他の Khattari の作品も、久々にちゃんと観てみたい。