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Review: Josef Nadj et Akosh S.: Les Corbeaux @ 世田谷パブリックシアター (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2012/02/16
世田谷パブリックシアター
2012/02/16, 19:30-20:30
Chorégraphie: Josef Nadj.
Compsition musicale: Akosh Szelevényi.

セルビア・ヴォイヴォディナ自治州 (Voivodina, Serbia) 出身のハンガリー系で フランスを拠点に活動する Josef Nadj と 2000年代以降 Nadj の作品の多くで音楽を手掛ける jazz/improv の multi-reeds/percussion 奏者 Akosh S. (同じくハンガリー系) の二人による舞台。 5年前に Asobu の制作で来日した際に得たカラスに着想を得た作品だ。 公演後のトークでの話によると、ハンガリーではカラスは知恵を象徴する良い鳥というイメージもあるそうだ。

全体としてはダンスな要素を強くした jazz/improv での live painting のセッションのよう。 Asobu は Henri Michaux に着想を得たとのことだったが、 この Les Corbeaux のペインティングの方が Michaux を思わせる所があったかもしれない。 微かな音や間合いを使った静謐なもので、動きも抑えたもの。 空間使いとか演出の妙というのはあまり感じなかった。 Nadj というとカクカクと引き攣ったような人形的な動きの印象が強いが、 今回はむしろ質感に拘りを感じる作品だった。

細く落ちてくる砂、暗く照らす白熱電球など、 その質感が醸し出す印象は、2000年に観た Woyzeck を連想させられるもの。 そういう所に東欧の Surrealism 的なものを感じて Nadj らしいな、と。 しかし、この作品のハイライトは、やはり、黒い塗料がたっぷり入った樽の中に入り どろどろに塗料まみれになった状態で踊る所だろう。 濡れたように黒光りするその色は、まさに、カラスの羽の色のイメージでもあるだろう。 樽に入って出てきた時よりも、むしろ、そこからひとしきり踊った後、 深皿のようなものに入った塗料を顔からかぶった時の方が、面白かった。 塗料に浸かるまでは導入部で、塗料を時々かぶりながら踊り続けるのかと期待しただけに、 そこからしばらくして終ってしまったのが、物足りなく感じた。

ところで、Nadj はカラスを演じるといってもステロタイプに それらしい動きをするわけではなかったのだが (それをいえば、Akosh S. もステロタイプにカラスの鳴き声を思わす吹き方はしなかった)、 途中、蹴爪らしきものを踵すぐ上に付けて踊っていた。 腕に黒い羽を付けたりするのでもないのに、なぜ蹴爪は付けたのか、 そのこだわりの妙なポイントが心にひっかかっている。

以下、関連する談話室発言の抜粋。

[2868] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Sun Jan 22 23:21:18 2012

日曜は、天気が悪かったら大人しく家で休んでいようと思っていたのですが、 午後からは陽も差してこころなしか暖かくなったよう。 そんなわけで、晩に 座・高円寺カフェ アンリ・ファーブル『ジョセフ・ナジをめぐるビデオ上映&トーク』 のCプロを観てきました。 Josef Nadj の舞台作品のビデオ上映会です。

前半は、Canard Pékinois (『北京ダック』, 1987)、 Nadj のデビュー作です。 しかし、食事をしながら観たのもマイナス要因だった気もしますが、いまいち入りこめませんでした。 確かにユーモラスな動きが多く、観客席からの笑いもよく聞かれましたが。 観客の反応が良いなあ、なんて思ってしまいました。 カナール・ペキノア と名乗る日本のパントマイム・ユニットがいたりすることもあって、 以前から観てみたいと思っていた作品だったのですが……。

後半は、Sho-bo-gen-zo (『正法眼蔵』, 2006)、 曹洞宗開祖の道元の執筆した禅の書『正法眼蔵』にインスパイアされた作品です。 Nadj 自身と Cécile Loyer の男女2人によるダンスです。 オープニングは能を思わせるような面、衣装や動きなどもあって、そのジャポニズムに若干引くところも。 しかし、以降は2人とも黒いスーツ姿で。 確かに禅を思わせるストイックな雰囲気は感じるのですが、 シュールな人形アニメーションをダンスにしたようなカクカククルクル動くところは、Nadj らしいなあ、と。 音楽は Akosh S. (Szelevényi Ákos) と Joëlle Léandre のデュオ。 saxophone / clarinet だけでなく様々な percussion を駆使する Akosh S. と 弓引きを多用して重い唸り響かせる Léandre のの演奏も、舞台を引き締めています。 2人はダンサーとほぼ対等な形で舞台で演奏しているので、 ダンス演出付きのライブ・ビデオとして楽しめたような所もありました。 ちなみに、上映されたビデオの抜粋が YouTube で観られます [YouTube]。 二月に世田谷パブリクシアターで公演する Les Corbeaux (『カラス』, 2009) も Nadj と Akosh S. のデュオともいえる作品のようですし、これは、楽しみです。

劇場付きレストランでの上映ということで、どういうスタイルになるのかいまいち読めなかったのですが、 上映中はしっかり照明を落として。手元を照らすテーブル・キャンドルくらいは欲しかったかも。 食事が来たのが上映が始まってからだったため、暗い中で食事するはめになってしまいました。 食事が冷めてしまうので、途中休憩まで置いとくわけにもいきませんし。 うーん、こういうことであれば、もっと余裕を持って行くべきでした。残念。