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Review: Centre Chorégraphique National d'Orléans / Josef Nadj, Asobu
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2007/01/28
Centre Chorégraphique National d'Orléans / Josef Nadj
Asobu
『遊*ASOBU』
世田谷パブリックシアター
2007/01/27, 19:30-21:00
Chorégraphie et Scénographie: Josef Nadj
Compsition Musicale: Akosh Szelevényi et Szilárd Mezei
Conception des Lumières: Rémi Nicolas assisté de Christian Halkin
Décoratrice: Jacqueline Bosson
Costumes: Yasco Otomo (大友 靖子)
Conception Vidéo: Thierry Thibaudeau
Dancseurs: Guillaume Bertrand, Istvan Bickei, Damien Fournier, Peter Gemza, Mathilde Lapostolle, Cécile Loyer, Nasser Martin-Gousset, Josef Nadj, Kathleen Reynolds, Gyork Szakonyi; Ikuyo Kuroda (黒田 育世) (Cie "BATIK"); Mineko Saito (斉藤 美音子) (Cie "Idevian Crew" / イデビアン・クルー); Ikko Tamura (田村 一行), Pijin Neji (捩子 ぴじん), Tomoshi Shioya (塩谷 智司), Yusuke Okuyama (奥山 裕典) (Cie Butô "Dairakudakan" / 大駱駝艦)
Musique interprétée par: Akosh Szelevényi (reeds), Szilárd Mezei (violin, viola), Gildas Etevenard (drums, percussion), Ervin Malina (doublebass).

Josef Nadj はセルビア・ヴォイヴォディナ自治州カニッツァ (Kanizsa, Voivodina, Serbia) 出身のハンガリー系 (Hungarian) で、 現在は、フランス・サントル地域圏のオレルアン (Orléan, Centre, France) の フランス国立カンパニーを率いているダンサー/振付家だ。 2006年の Festival d'Avignon のために制作された新作 Asobu は 日仏国際共同制作で、日本のダンサー、舞踏家も参加している。

Nadj 曰く、この作品は「Henri Michaux の作品の横断」とのこと (Michaux はベルギー (Belgium) 生まれでフランス (France) を拠点とし アンフォルメル (Art Informel) に近い文脈で活動した画家/詩人)。 しかし、具体的にどこだという所は判らなかった。 むしろ、印象に残ったのはパペットというか木偶を使ったこと。 オープニングでは包帯巻きの状態で一人で、 エンディングでは花嫁衣装を思わせる白い衣裳を着た 斉藤 と2人で、 舞台上のスクリーンに投影される映像を見つめていた。 木偶の結婚(式)に至るお話というほのめかしを感じるが、 それほど明確なストーリーは無い。夢や自由連想のような感じもある。 Woyzeck は人形劇を思わせるような所が多かったし (レビュー)、 Les Commentaires d'Habacuc でもパペットダンスが印象に残った (レビュー)。 今回も主人公格に木偶を使うあたり、Nadj らしいと思った。 馬や船上の人形などを象徴的に使った映像使いなど、 シュールレアリスティックなセンスも Nadj らしいが。

今回は、日本のダンサーや舞踏家をフィーチャーしていたが、 Nadj のカンパニーのダンサーに踊り負けていなかったように思う。 Nadj がバレエ的な動きをあまり使わないということも巧くハマったように思う。 その一方、大駱駝艦の舞踏家が参加しているのだが、 舞踏的の動きを強く意識させられることは意外と無かった。 しかし、剃髪した頭、衣裳の継ぎ接ぎの感じ、正座等の振舞など、 禅僧を連想させられる所もあり、むしろそういう点に、日本的な要素を感じた。

肘や膝をつり上げられたかのように痙攣するような動きなど舞踏的といえばそうなのだが、 舞踏的な動きが自然に Nadj の作品の中に溶け込んでいた。 そもそも、そういう動きは、Woyzeck でも多かったし、 以前から Nadj が好む動きのように思う。 オープニング直後の群舞など、力強い音楽の生演奏もあり、 群舞にゾンビダンスのような迫力を感じたのも、印象に残った。 そういう内発的に沸き上がる動きだけではなく、 人形やゾンビのような操られるような動きとの拮抗が、 Nadj の作品におけるダンサーの動きの面白さのようにも思う。 Woyzeck にはチェコ人形アニメーションを連想させられたが、 人形も木偶ということもあって、Asobu は NHK 人形時代劇といったところだろうか。

可動式の台、衝立や映像用のスクリーンなど舞台の工夫もあったけれども、 そういう舞台構成・演出より個々のダンサーの動きの方が印象に残った。 ちなみに、初演の Festival d'Avignon の公式サイトの記録を見ると、 映像は Le Palais des Papes (教皇庁) の中庭の壁に直接投影したりもしていたようだ。 その写真がかっこいいだけに、日本で似たような演出が出来なかったのは残念だ。

今回の公演は、音楽は生演奏だった。 ダンサーに絡ませるようなことはなくオーケストラピットでの演奏だったが、 violin/viola 使いもあって少し東欧的な雰囲気も感じさせつつ、 Albert Ayler 的な激しい free jazz 風の演奏からアブストラクトな improv まで、 舞台上のダンサーとの絡みもピッタリの演奏を聴かせてくれた。 ちなみに演奏するのは、フランスの jazz/improv シーンで活動する Akosh S. Unit の Akosh Szelevényi と Gildas Etevenard (Etevenar 参加のリリースとしては Nap Mint Nap (EmArcy / Universal (France), 981 493-4, 2004, CD) がある)、 ハンガリー/セルビアの jazz/improv シーンで活動する Szilárd Mezei International Ensemble の Mezei と Ervin Malina (Malina 参加のリリースとしては Draught (Leo, CDLR447, 2005, CD) がある) からなる 4tet だ 。 ちなみに、Szelevényi はハンガリー出身でフランスで活動、 Mezei はヴォイヴォディナ出身という点で、Nadj と近いバックグラウンドを持っている。 ダンス抜きでも充分に楽しめる演奏だったので、 是非、Asobu のための音楽をCD化して欲しいとも思う。

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