Thomas Demand は1990年代半ばから活動するドイツの現代美術作家。 事件現場等の象徴的な場所を厚紙模型によるジオラマで再現して撮影し大判にプリントする写真作品で知られる。 そんな写真作品よりも、最近制作するようになったビデオ作品を中心に楽しむことができた。
最も印象に残ったのは、2008年に 太平洋航海中に大嵐に襲われた豪華客船 Pacific Sun の船内映像 [YouTube] を再現したビデオ作品 “Pacific Sun” (2012)。 模型を実際に揺らして椅子やテーブルが流れるように移動する様子を撮影したと思われるビデオは、 その動きのリアルさと、模型の作り物っぽさ、人物が映っていない不自然さが拮抗しているようで、 まさに模型撮影ならではの作品になっていた。 また、雨がアスファルトを叩く様子を再現したかのような “Rain” (2008) も、 液晶絵画 [レビュー] 的な 厚紙模型アニメーションが楽しめた。
ビデオ作品の方が模型を撮影することの必然性・説得性を強く感じるので、 写真作品もそこから遡って原点を見ているようで、以前に観たときより興味深く感じられた。 東日本大震災後の福島第一原子力発電所の制御室の様子を再現した “Control Room” (2011) や 2010年にドイツ・デュイスブルグで起きたラブパレードの悲劇の後に現場に追悼の品々が置かれた様子を再現した “Tribute” (2011) は、 元ネタとなった写真 (もしくはそれに近いもの) を観たことがあったこともあり、 その質感の違いなども含めて興味深く観ることができた。