Teater Studio Indonesia はインドネシア・ジャワ島西部、ジャカルタに近い バンテン州セラング (Serang, Banten, Indonesia) を拠点に活動するカンパニーによる、 セリフは全く用いず、明確なストーリーも無く、 竹竿を使った動きを繰り広げつつ、 最終的には直径5m近い傘か独楽のような巨大なオブジェを組み上げる、 というフィジカル・シアター的なパフォーマンス。 組み上げられ少しずつ大きくなっていく竹のオブジェ、 そして、そのオブジェの変化に従って変化するパフォーマーの動きが面白かった。
火を篝った竹製の祭壇を用意し、竹で作られた竜の頭部のようなものを被って登場したときこそ、 地元の伝統的な祭礼の儀式に基づいているんだろうかと思った。 しかし、次第にそんなことを忘れて、その動き楽しんだ。 鍛えられたアクロバット的な動きに基づくものではなかったけれども、 最終的に組み上げられたオブジェの形が似ていたこともあり、先週末に静岡で観たばかりの Vaivén Circo: Do Not Disturb [写真] を連想させられた。 大きなオブジェを舞台の上で組み上げたり変形させたりする作業自体をパフォーマンスの一部とししつ、 そのオブジェの形に発想した (もしくは生じる制約に反応した) 動き広げていくという。 このようなタイプのパフォーマンスは、マイム、サーカスやそれに近いフィジカル・シアターの文脈で、 それなりに見ることがある。 しかし、そういえばこういうパフォーマンスを得意とする日本のカンパニーはあまり思い当たらないなあ、と。
パフォーマンスが興味深かったので、パフォーマンス後のトークも聞いてきた。 普段から生活に密着したものとして竹を用いているのではなく、 最初は竹の使い方も知らなかったので、竹のマスターと呼ばれるような人に教わったり、 プリミティヴな生活を今でも続けている部族の集落に教わりに行ったりしたという。 あと、演出を手掛けた Nandang Aradea は2000-2005年にロシア・モスクワの演劇学校へ留学しており、 そこで知った20世紀初頭ロシア・アヴァンギャルドの Всеволод Мейерхольд [Vsevolod Meyerhold] の理論に影響を受けたという。 今回の上演作品のサブタイトルにある “Bionarrative” の “bio” というのも、 Mayerhold の俳優訓練理論 «биомеханика» [biomekhanika] を意識したものという — 「biomekhanika による物語」とでもいう意だろうか。 (トークを聞く前は「竹のような生物由来物による物語」という意味だろうか、と推測していた。) トークを聞いていて、 パフォーマンスを観ていて感じたサーカス的なものは biomekhanika 由来だったのかと、腑に落ちた。 このような竹という素材へのアプローチや、Meyerhold に影響を受けた動きの作り方など、 一見伝統的なように見えて、実はかなり現代的な作りのパフォーマンスだ。