11月3日(土) に日帰りで 大道芸ワールドカップ in 静岡 2012 を観てきました。 十年ほど前はほぼ毎年泊まりがけで行っていたものですが、2008年を最後に行かなくなっていたので、4年ぶり。 何年も続けて観ていると目新しさが減ってくるということはありますが、 足が遠退いてしまった一番の理由は、 他の大道芸フェスにはあまり無い野外劇やパプニング、サーカス的なパフォーマンスが減ってしまったこと (2008年に行った時にも書いたことですが)。 しかし、スペシャルプログラムなど、 また試みも新たに始めているように感じられたので、足を運んでみました。 朝10時過ぎに静岡入りして、19時半頃まで、駿府公園を中心に観て回わりました。 久々に行ったこともあり期待以上、 1泊くらいのスケジュールでゆっくり観たいと思うくらいに楽しめました。
今回、最も気になったのは、 静岡県舞台芸術センター (SPAC) との連携を深めようとしていること。 2010年、2011年とプレミアムステージで上演した SPAC が、 今年は 宮城 聰 演出の新作を持って大道芸のステージへ進出、大道芸に交じっての上演をしていました。 公式パンフレットでも、 宮城 聰 (SPAC芸術総監督) と 甲賀 雅章 (大道芸ワールドカップ in 静岡プロデューサー) のスペシャル対談で 地方における芸術文化、大道芸と演劇の共通点や相違点、コラボレーションの可能性など、興味深い話を繰り広げています。 SPAC といえば、今年の ふじのくに⇄せかい演劇祭 では、 Fondazione Pontedera Teatro: Lisboa [レビュー] という野外劇を招聘していました。 一人芝居 The Adventures of Alvin Sputnik - Deep Sea Explorer [レビュー] にしても、 今回の大道芸ワールドカップ in 静岡 での Cie Sacékripa: Vu のような 小劇場枠でやっても通用しそうな作品でした。 そんな SPAC ならではの取り組みと 大道芸ワールドカップ in 静岡 がうまく連携・補完し合って、 より懐の深い総合的な野外パフォーミング・アーツの祭典になっていけば、と期待しています。
といっても、大道芸スデージでの SPAC の作品は、ウケていたとは言い難いものでした。 市民審査員による投げ銭方式で選ばれるワールドカップ入賞者を見ていると、 わかりやすく笑いを取るジャグラー、マイム芸人や派手に身体能力を見せ付けるアクロバットに 人気があるのだろうとは思います。 出場している大道芸の多くはそういう方向性を持ったものだとも思います。 しかし、2001, 2000年の L'Élépahant Vert [写真] や 2005年の Avanti Display [写真] のような、 ウケを狙ったり技を見せつけたりするタイプではなくむしろ行間の読むような野外劇も、 入賞とは縁が無いものの過去に出演していました。 SPAC だけでなく、去年からワークショップをしている P2BYM もそうですが、 単にウケの良いものだけでなく、 万人受けするものではないかもしれないが興味深い野外パフォーマンスも継続して欲しいものです。
今回観た範囲で最も良かったのは、Vaivén Circo のサーカス。 派手な大技はないもの、ダンス的なアクロバットで物語ような雰囲気も可愛らしく楽しめました。 カナダ・ケベック州との交換プログラムの2組、Chilly & Fly と Héloïse & William は、 さすがの身体能力と演技力。 また、静岡に限らず大道芸フェスティバルでは細かい芸が観づらいので、 マジックはほとんど観ていなかったのですが、今年はマジックもチェック。 特に Xavier Mortimer の “Magie Nouvelle” が楽しめました。
過去の大道芸ワールドカップ in 静岡の写真集: 1999年、 2000年、 2001年、 2002年、 2004年、 2005年、 2006年、 2007年、 2008年。
以下に観たカンパニー/パフォーマの中から主なものを個別にコメント付き写真で紹介。 パフォーマー名演目名については、自分で調べられる限り、 パフォーマーの公式サイトや、海外の大道芸関係のフェスティバルのプログラム などで一般的に用いられている表記に従っています。 調べがつけられなかったものについてのみ、 会場で配布されていたパンフレットに用いられていたものを用いています。
カナダ・ケベック州の交換プログラムの中の1組。
Chilly & Fly は Alexandre Lane と Émilie Fournier の2人組。
Russian cradle と呼ばれる、台の上に固定された一人がハンド・ツー・ハンドでもう一人を振り、
振られるもう一人が空中芸をする、
アクロバットと空中ブランコを合わせたようなパフォーマンスでした。
5m 程の台の上という高さの迫力もあり、青空を背景に空中姿勢も美しかった。
YouTube に投稿されている プロモーション用の動画 には、Émilie 視点の映像も含まれていて、こちらも面白いです。
調べていて気付いたのですが、 Émilie Fournier は2000年シドニー・オリンピックのカナダ代表選考会に出場するレベルの体操選手だったのですね。あの空中姿勢の美しさに納得。
Alexandre Lane は
ReCircle Collective
というリングをメインに使うサーカス・カンパニーを率いていて、
Émilie Fournier もそのメンバーの一人。
今回は大道芸ヴァージョンということもあってか、
Standing Cradle への導入的なパフォーマンスとして、
Alexandre ともう一人の男性パフォーマー (おそらく ReCircle Collective のメンバー)
による、コミカルな客弄りもするボクシング試合仕立てのリング・パフォーマンスもやっていました。
オランダのカンパニー
Close-Act Theatre によるスティルトの回遊パフォーマンス。
観ていたときは怪鳥だと思っていましたが、タイトル
Saurus
からすると、恐竜だったようです。
三匹とそれを操る人という編成で、特にストーリーを演ずるというわけではなく、練り歩いていました。
日本のパントマイム芸人 サンキュー手塚。
このときは新ネタ中心。
ジョギングを支援ロボットを演じる「ロボットフェア20XX」、「海猿」パロディの「海亀」。
そして、女の子に向かって走るおなじみのネタ「ハードル」。
新作でも、毒の無いポップな笑いとか、客の使い方とか、相変わらずだなあ、と。
イギリスのクラウン芸人
Fraser Hooper
による、コミカルなボクシングショー。
ボクシング相手だけではなく、リングのコーナーの柱、効果音音出しまで、
観客を使って作り上げていきます。
観客を使うことによって、うまくいかない所まで含めて、笑いにしてしていました。
ちょっと皮肉っぽそうな所もイギリスらしいかも。
Raquel Pretel と Miguel Angel Moreno によって2008年に結成された
スペイン・アンダルシア州のグラナダのサーカス・カンバニー
Vaivén Circo による約45分の作品
Do Not Disturb。
サーカスと行っても、大技の見せ場を物語で繋ぐのではなく、
むしろダンス的なアクロバットで物語っていくような作品で、
べたにお芝居的でもなく、かといって抽象的に過ぎず、ちょっと可愛らしい雰囲気が楽しめました。
物語は、工房で働く男性3人と女性1人の4人が、
最終的な仕上がりイメージが判らないまま、部品の四分円弧状の箱4つで指向錯誤するというもの。
弧状の箱4つを様々に組み合わせて船や馬など様々に見立てて、話を薦めていきます。
その見立ての妙だけでなく、合わせの多様さを生かしたアクロバット的な動きも面白かった。
そして、最後は、これはクルミを割るためのミルだったんだ、と。
最近は、よりダンス色を強め、 Campañia Circo-Danza Vaivén として活動しているよう。こちらの作品も良さそうです。
カナダ・ケベック州の交換プログラムの中の1組。
フランス出身の Héloïse Bourgeois とアメリカ出身の William Underwood による
Chinese pole の男女デュオ。
Gorillaz: “Cristalised” (The xx のカバー) を音楽に使い、
難しそうな技を絡めつつも、ロマンチックな男女関係を思わすパフォーマンスを見せてくれました。
大道芸フェスティバルよりも落ち着いた雰囲気の劇場向けとも思いましたが。
フランス・マルセイユ出身の Patrice de Benedetti と日本出身の 三橋 由衣 [Yui Mitsuhashi] による
公共の場でのダンスのためのユニット
P2BYM。
今回は、de Benedetti かかつて在籍した Cie Ex Nihilo の作品
Le Banc est L'Axe を、de Benedetti のソロで。
場所を特に決めずにゲリラ的に行っていたので、全てを観られたわけではありませんが、
自分が観たときは、まるで酔っぱらいのようにベンチから転げ落ちてたりふらふらと歩いたり。
近寄り難いようで、うまく観客と絡んでタバコをもらったりもする、絶妙な間合いのパフォーマンスでした。
アルメニア出身の Sos とロシア・モスクワ出身の Victoria の
Petrosyan 夫妻による
早着替え (quick change) マジック。
言葉による説明をせずに、踊りながらどんどんテンポよく着替えていきます。
また、観客を舞台に上げて、縄抜け上着替えのマジックも見せました。
今回は、クラウンに扮した Sos の父によるイントロで、
早着替えの後に、子供2人
Sos & Tigran
によるトランプマジック (こちらも踊りながらの派手なパフォーマンス) も。
一家揃ってということで、
大道芸ワールドカップ in 静岡では Sos Magic Company と名乗っていました。
この春に東京日仏学院で公演した
Cie 14:20
[レビュー] と同じく、
フランスの “Magie Nouvelle” シーンで活動する
Xavier Mortimer によるショー。
パントマイムの寸劇がベースにあり、
マジックのテクニックはむしろその中にシュールな味を加えるものとして効果的に使われていました。
マジックとマイムだけでなく、
オープニングとエンディングは自身によるアコーディオン演奏。
Cie 14:20 のパフォーマーにしてもそうでしたが、“Magie Nouvelle” 界隈の人は
いろいろこなせる多才な人が多いなあと感心。
多才だからこそ、“Magie Nouvelle” のような試みが出来るのかもしれません。
アクロバットやジャクリングとの組合わせだった Cie 14:20 と異なるタイプの
“Magie Nouvelle” を楽しめたのは、収穫でした。
SPAC による大道芸向けの新作。
3001年の未来人が、時代を遡って、その時代時代の演劇を辿って行くというもの。
21世紀の静岡の大道芸をとりかかりに、
19世紀江戸の 四代目鶴屋南北 『東海道四谷怪談』、
17世紀フランスの モリエール 『病は気から』 (Molière: Le Malade imaginaire)、
16世紀イギリスの シェイクスピア 『ロミオとジュリエット』 (William Shakespeare: Romeo and Juliet) と取り上げた。
『病は気から』は現在公演中、『ロミオとジュリエット』は11月末に公演予定ということで、 その作品紹介というか公演PRも兼ねたかのような内容。 『東海道四谷怪談』に始まったときは、 『マハーバーラタ』などアジア的なものを意識した作品作りをしている 宮城 聰 [レビュー] がどんな演劇史観を見せてくれるのかと期待したら、 『病は気から』『ロミオとジュリエット』と公演PRのようになってしまい、ちょっと興醒め。 半端にウケ狙いの大道芸的なことをしなかったのは良いと思うし、 『病は気から』でのラップは、最後の『ロミオとジュリエット』でのセリフの詠唱など、 音楽的なセリフ使いなども良かっただけに、 公演PRのようなことをせずに、もっと志高いパフォーマンスして欲しかった。