BankART Studio NYK での 川俣 正 の個展は、既存の建築物を「拡張する」インスタレーション。 川俣 正 の展覧会はそれなりに観てきてはいるけれども、 ここ最近はプロジェクトの記録の展示という面が強く、そこが退屈に感じられていた [レビュー]。 しかし、今回の展覧会は、確かに記録の展示もあったけれども、あくまでインスタレーションが主役。 アートスペースになっているとはいえ元倉庫からあまり手を入れられていない建物の 3階分だけでなくアプローチの通路や海側の外壁まで使ったインスタレーションは、 絶妙なバランスで物量と空間を感じさせるもの。 今まで様々なドキュメントで観たような気分になっていたけれども、 このような建築を「拡張する」インスタレーションを体感したの初めてかもしれない。
建築を「拡張」するために使われた素材は、この場の記憶を想起させるもの。 一つは、再開発で取り壊された会場間近の公団海岸通団地 (1955年竣工) で使われていた窓枠等の木製建具。 もう一つは、会場が日本郵船海岸通倉庫跡であることを想起させるような木製の物流パレット。 これらを一見乱雑なように積み上げたり空中をわたしたりして、空間を異化させるインスタレーションだ。
建物内のインスタレーションは空間を贅沢に使ったもので、 物流パレットを積み上げて広いコクーンのような空間を作り上げた1階こそそれなりに物量を感じるものだったが、 木製建具を高さ3メートル程の所にフロア一面にわたして固定した2階のインスタレーションは、 水面を埋め尽くすかように浮かぶ建具を水面下から眺めているよう。 ガラスの残った隙間の多い古びた建具が宙に浮くような様は、見通しの良さもあって圧迫感も無い。 沢山の建具を使いながら、その物量を重く感じさせない、その空間作りがとても良かった。 3階も空間を広く使い、倉庫らしい太い柱に既成するように木製の小屋を設置していた。
一方、建物の外部のインスタレーションはむしろ、圧倒的な物量を感じるもの。 木製建具を絡めたアプローチは圧迫感無く客を誘導するかのようだったが、 海側の外壁を物流パレットで覆ったインスタレーションは迫力があった。 外部階段、テラスや窓の見晴らしを遮る木製のパレットや建具などは圧迫感もあり、物量感を強めていた。
そして、そんな建物外のインスタレーションと 空間の広さを生かした建物内とコントラストを成して、その感覚を強め合っていた。 そんな空間使いの妙が楽しめた展覧会だった。
川俣 正 は2010年以降 『東京インプログレス』 というプロジェクトを隅田川沿いで展開している。 現在、「汐入タワー」「佃テラス」「豊洲ドーム」の3つの構築物が完成している。 なんとなく気が進まずに観に行きそびれていたのだけれども、 この展覧会を観て、観に行こうかという気分になった。