不勉強ながら今までこの映画を知らなかったのですが、 YouTube に投稿されている ものを偶然知り観たところ、とても興味深い内容でした。 備忘を兼ねて、メモ。
1925年に制作された『美と力への道』という意のタイトルのドキュメンタリー映画で、 スポーツやダンスなどの身体文化 (Körperkultur) を通して、あるべき身体の強さや美しさや、 それを獲得するためのトレーニング、メソッドなどを映像化しています。 理想として古代ギリシャ (ギリシャ彫刻やオリンピック) があるあたりにも時代を感じますが、 当時のダンスやスポーツの様子が伺える興味深い内容です。 構成は以下の6部からなります。
ギリシャ彫刻のような「自然な」古代ギリシャの身体が理想であり、 現在の我々の身体は職業等で歪められている。 理想の身体を取り戻すためにスポーツやダンスを、という、この映画のテーマが 第1部にて寸劇で示されます。 そして、第2部 (9分30秒過ぎから) では、まず、健康のための身体トレーニングが紹介されます。
第3部は当時のドイツで流行したリトミック体操や そこから派生したり影響を受けたりした様々なメソッドの紹介。 続く第4話では、フォーク的なものからバレエも含むダンスを取り上げています。 去年読んだ、鈴木 晶 (編) 『バレエとダンスの歴史 —— 欧米劇場舞踊史』 (平凡社, ISBN978-4-582-12523-8, 2012-03-16) [読書メモ] の 第3部「ドイツのダンス」で触れられているようなダンスを、ここで観ることができました。 自分にとっては、この2章がとても興味深く観られました。 しかし、これらが、去年再演上演を観た『春から秋へ』 [レビュー] とほぼ同時代かと思うと……。
第3部 (19分30秒頃から) では、 まず、リトミックの元祖、ドレスデン (Dresden) 郊外ヘレラウ (Hellerau) の Jacques Dalcroze の学校が紹介されます。 Heinrich Tessenow による新古典主義様式の校舎のダンスで掴みは充分。 子供たちの踊る様子も可愛らしいです。 続いて、なぜか、Niddy Impekoven のダンス “Die dekadante Puppe” (23分過ぎから)。 三角帽の道化姿で踊るのも可愛いのですが、リトミック関連というより、 緊張と弛緩のという動き共通性と重要性を示すためのものでしょうか。
続いて (24分30秒頃から)、 Rudolf Laban の “Loheland” 学校の自然な呼吸のリズムを基本とするメソッド、 “Loheland” 学校のメソッドを基本とする Anna-Herrmann 学校の訓練法、 女性の身体のために開発されたアメリカの外科医 Dr. Bess Mensendieck のエクセサイズ、 Dr. Bess Mensendieck の原則に基づくハンブルグの Hedwig Hagemann の学校のエクセサイズが紹介されます。 これらは、リトミックから影響を受けた身体メソッド、エクセサイズのようです。 Jacques Dalcroze と Rudolf Laban の学校については 『バレエとダンスの歴史』でもそれぞれ1節を割いて記述されていましたが、それ以外は言及されていません。 それ以外にも歴史から消えたいろいろな流派があったのだなあ、と。
第4部 (32分過ぎから) では、様々なダンスが取り上げられます。 まずはフォーク的なものということで、 ヨーロッパ以外から、アフリカ、ハワイ、日本、インド (ビルマ) の踊りが取り上げられます。 ここから始まるのも、いかにもオリエンタリズム。 日本のダンス (33分30秒頃から) は 石井 漠 & 小浪 (Bac und Konami Ishii) による “Tanz der Möwen” (鴎の舞?)。 どうしてこれがとも思いますが、渡欧中で撮影しやすかったのかもしれません。 この後は、ヨーロッパのフォーク的なダンスということで、 “Bayerische Phantasie: Ein Wilddiebs-Tanz (Der Kampf um die Beute)” (『バイエルン・ファンタジー —— 泥棒ダンス (戦利品を巡る戦い)』) というストーリー仕立てのダンスと、 Caroline de la Riva によるスペインのダンス (少々フラメンコ風)。
続いて、ダンス=パントマイム (Tanz-Pantomime) ということで、 演劇的というか劇場舞踊となります (36分30秒頃から)。 まずは、Rudolf Laban のダンス=ドラマ “Das lebende Idol”。 半裸の群舞に Pina Bausch の “Le Sacre du Printemps” を連想させられました。 そして、Laban の学校の代表的な女性ダンサー Dussia Bereska による “Die Orchidee” (『蘭』) (37分過ぎから)。 ちなみに、胡座座りしたまま踊る『蘭』は『バレエとダンスの歴史』でも言及されています。 この後は、Niddy Impekoven 2作品。 “Das Leben der Blume” (『花の寿命』) (37分30秒頃から) は可憐さもある踊りですが、 田舎娘の人形のような衣装を着て踊る “Münchner Teewärmer” (『ミュンヘンのティーウォーマー』) (40分頃から) のひょうきんさも良いものです。 さらに、石井 漠 の “Der Gefangene” (『囚人』)。 半裸で後ろ手に縛られ身悶えるような動きが舞踏にも繋がるようで、この頃からこうだったのだなあ、と。
そして、バレエに続きます (42分頃から)。 まずは Michael Fokine の作品や Ballets Suédois で知られる スエーデンのバレリーナ Jenny Hasselquist の “Die weiße Rose” (『白バラ』)。 続いて (43分30秒頃から)、Ballets Russes の代表的バレリーナ Tamara Karsavina のソロとデュオ (“Sylvia” から)、 そして、スローモーション映像と続きます。 この映画で使われているのは残念ながら前衛的な演出のものではありませんが、 Ballets Suédois や Ballets Russes でこういうバレリーナが踊っていたのか、と、感慨深く観ることができました。 で、第4部のトリはバレエからダンスに戻って、Mary Wigman 学校。 ここも有名で『バレエとダンスの歴史』でも1節を割いて記述されています。 Mary Wigman によるダンス=ドラマ “Der Exodus” (46分30秒頃から) は 女性ダンサーだけの野外ダンスでちょっとミステリアスな感じも映像映えするものでした。 これはどこか再演して欲しいものです。
第5部はスポーツ (48分30秒頃から)。 陸上、体操、球技、水泳、格闘技、ボート、ゴルフ・野球と続きます。 基本的に今でも行われている近代スポーツですが、 そうでないものとして、球技の中で直径2メートルはあろうボールを押し合う Pushball が出てきました。 鉄棒や鞍馬を屋内ではなく野外でやっているというのも新鮮。 水泳で取り上げているのが競泳ではなく飛込み競技なのは、撮影上の制約のせいでしょうか。 格闘技では柔道もとりあげられます。 この部では当時の有名な選手を起用しているようですし (野球の “Babe” Ruth はさすがに判った)、 現在との技の違いもあるでしょうし、 スポーツ史に詳しい人が観れば見所がいろいろあるのだろうと思うのですが、自分には手に余ります。
“Der königliche Sprung” という劇らしきもの (69分頃から) を前振りに、 最後の「新鮮な空気、太陽、そして水」と題された第6部 (71分頃から) では、 主に野外でのトーレーニングやリクリエーションが取り上げられます。 ドキュメンタリ的な映像の中、 入浴だけローマ風のものを舞台とした寸劇仕立てになるのが可笑しいです。
このように、自分にとっては特に第3, 4部で見所の多い映画でした。 しかし、この時代に詳しい人が観れば他にも見所がもっとあるのではないかと思います。 ちなみに、この映画は Leni Riefenstahl の初出演映画で、 ヌードダンサーの一人として出演しているそうなのですが、 誰が Riefenstahl かは自分には判りませんでした。 というわけで、登場する人物や身体メソッド、ダンス作品、競技、技、リクリエーションのタイプなど、 この映画の中でこれは見所だという所があれば、 (できればどうして見所なのかその理由と共に) 是非教えて頂ければと思います。