Ilotopie は1980年に南フランス・マルセイユ近郊の Port Saint Louis du Rhône で設立された、 フランスで arts de la rue と呼ばれる野外劇・パフォーマンスを得意とするカンパニー。 そんな彼らによる Fous de Bassin (『水盥の狂気』という意味) は、演劇がかった水上花火ショーとでもいうものだった。
冒頭、黄色い車がまるで水面を走るかのように登場するものの、エンジンルームから火を吹いてストップ。 その車から逃げるように降りたった男性の周囲が、最初のうちは人々が行き交う普通の街から変容していく。 回転する動きやホイールをモチーフとした造形と、トーチに始まり次第に派手になっていく花火は、 冒頭で示されたエンジンルームが火を吹くイメージが悪夢的にエスカレートしていくようでもあり、 にもかかわらず祝祭的に盛り上がって行くようでもあった。
船らしい造形のものもあったが、水面下にギリギリ隠れるような推進機構付きフロートを多用し、 まるで水面上を人々や自転車、自動車が行き交うかのように見せていた。 静かに広がる日没後の暗い水面は、まるで薄く水を張った広大なステージのよう。 水面上では通常ありえないような光景が広がるのも幻想的で、 そこに花火の明かりが反射し煌めくのも美しかった。
登場する自動車なども実寸大で、ホイール状の造形物にしても巨大、 大玉を打ち上げるのではないにしろ花火も大掛かりだ。 しかし、岸壁の客席から距離を置いて観ているうえ、 水面上で大きさや距離を比定できるような手掛かりが少ないため、スケール感が狂わされる。 大掛かりなパフォーマンスを観ていながら、ミニチュアの水上人形劇を観ているよう。 そんな狂ったスケール感も、イメージをより幻想的にしていた。
夢であることを象徴するような巨大なベッド、次第に子が成長していく母子、 人形のような巨大なホイールの上に乗った赤いドレスの女性など、 登場するするイメージのセンスだけでなく、 ストーリーというより、回転するホイールや火を鍵にイメージ連想で展開していくような所も、 Cie Philippe Genty [レビュー] に近いセンスを感じた。