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Review: 『タイポグラフィ 2つの潮流 —— 20世紀欧文タイポグラフィの展開を俯瞰する』 @ 武蔵野美術大学美術館 展示室3 (デザイン展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2013/08/10
武蔵野美術大学美術館 展示室3
2013/05/20-08/18 (日祝休; 6/9,7/15,8/18特別開館); 10:00-18:00 (土・特別開館-17:00).

19世紀末から20世紀半ば1960年代頃にかけての欧文タイポグラフィの展開を 国際様式と伝統様式の二つを軸にその展開を追う展覧会。 欧文ということで、ヨーロッパでの出版物を中心に構成されていた。

国際様式はサンセリフの書体に幾何的なレイアウトを典型とするもの。 Bauhaus など 1920s Avant-Gardes の出版物に始まり、 戦後、書体 Helvetica にグリッドシステムのレイアウトを典型的なとする International Typographic Style へ展開していく流れだ。 もう一つの潮流である伝統様式は、それまでの書物のありかたの分析を基本とするもの。 Arts & Crafts 運動での「美しい書物」に始まり、Art Nouveau へと展開し、 戦後、Penguin Books などを通して一般化する一方、プライベート・プレスへも受け継がれていく。

伝統様式のようなタイボグラフィと書体の系譜があることに自分が始めて意識させられたのは、 『エリック・ギルのタイポグラフィ —— 文字の芸術』 (多摩美術大学美術館, 2011) で [レビュー]。 Eric Gill がデザインしたサンセリフ書体 Gill Sans は、 Arts & Crafts から Art Nouveau 色濃い Gill のデザインの中で異質に感じていた。 一方、戦間期に Die neue Typographie (1928) を著し 国際様式の代表的な存在だった Jan Tschichold は、 ナチスが政権を取った1933年にドイツから逃れイギリスやスイスで活動するようになると、 伝統様式をとるようになる。

そんな Tschichold が 1947年から1949年にかけて手掛けたイギリスのペーバーバック Penguin Books の装丁には、 伝統様式のタイポグラフィながらサンセリフ書体 Gill Sans が使われている。 以前はそのサンセリフ書体使いも「新しいタイポグラフィ」の Tschichold らしいという程度にしか思っていなかったが、 この展示の流れで Penguin Books の装丁を見て、 Gill Sans は伝統様式のタイポグラフィに合うサンセリフ書体だと気づかされた。 そして、国際様式と伝統様式の2つの流れは独立したものではなく、 Eric Gill や Jan Tschichold の仕事はそれを繋ぐものといえるのかもしれない。

この展覧会を観る前は、このタイポグラフィの2つの潮流は 1936年に MoMA の Alfred H. Barr, Jr. が描いた 2つの系譜 (モダニズムとシュルレアリズム) に対応するものだろうか、と予想していた。 実際に観てみると、Dada のような例外はあるものの国際様式はモダニズムの対応物と言えるものだが、 伝統様式とシュルレアリズムにはズレがある。 Jean Cocteau や Salvador Dali の挿画のプライベートプレスの美術本などはうまく対応するのだが、 戦後の Jan Tschichold や、書体 Times New Roman で知られる Stanley Morrison の仕事などはシュルレアリズム的とは言い難い。 こういう所に、タイポグラフィーのような応用芸術と美術との違いを見た。

1920s Avant-Gardes への興味を持っていることもあり[関連レビュー]、国際様式は自分にとって馴染み深いもの。 この展覧会で国際様式と並行して伝統様式のタイボグラフィの本を多く見て、 自分のタイポグラフィと書体の知識が国際様式に偏向してることを痛感した。 自分の知識の偏りを正すという点でも展覧会図録も欲しかったのだが、 会期末近かったこともあり既に完売。 増刷の予定もないということで、これも少々残念だ。