20世紀初頭から半ばにかけてドイツ、そしてスイスで活動したグラフィック・デザイナー Jan Tschichold の回顧展。 戦間期 Modernism のマニフェスト Die neue Typographie (1927) で知られ、 それなりに仕事を観る機会はあったが、こうしてまとめて観たのははじめて。 『タイポグラフィ 2つの潮流 —— 20世紀欧文タイポグラフィの展開を俯瞰する』 (武蔵野美術大学美術館 展示室3, 2013) [レビュー] を数か月前に観たばかりということもあり、 Morderism 的な Internationalism と Traditionalism という20世紀の二大潮流を繋ぐ 彼の仕事の全容を興味深く追うことができた。
個人的な好みもあるが、やはり最も興味を引いたのは、 戦間期 Modernism の「新しいタイポグラフィ」関連の仕事。 Die neue Typographie が有名だが、この展覧会では、それに先立って出版された 『タイポグラフィ通信』 Typographische Mitteilungen の特別号 “Elementare Typographie” 「タイポグラフィの基礎」 (1925) を運動の幕開となるものとして大きく扱っていた。 書名は目にしたことがあれど、物や図版を観たのは初めて。 ロシアの El Lissitzky やハンガリーのMA、そして Bauhaus など当時の Avant-Garde なタイポグラフィを紹介する内容で、 当時は画期的な内容だったのだろうと伺えるもの。 全ページが小さいながら図版として載っている展覧会カタログを含め、今回の展覧会の一番の収穫だった。
Tschichold の仕事は書籍が多いのだが、 書籍だけでなく戦間期 Modernism の時代のポスターが多く展示されていたのも見所。 Buster Keaton の映画 The General のポスターなんてつくっていたのか、と、 映画館 Phoebus Palast のためのポスター (1927) に、彼なりの映画の解釈を楽しんだ。
スイスへ亡命してからの New Traditionalism 以降の作品としては、 1947年Penguin Books が有名だが、それだけでなく、 それに先立つバーゼルの Sammlung Birkhäuser / Verlag Birkhäuser での仕事 (1943-) が多く展示されており、その色も控えめの美しい装丁が印象に残った。
もちろん、回顧展ということもあり、ベースとしてカリグラフィのスキルを持ち、いわゆるゴチック書体も使いこなしていたこと、 中国の 十竹斎 の版画詩集のようなものを1943年頃から手掛けていたこと、など、今まで意識することの無かったような面を見ることができた。 書体 (タイプフェイス) のデザインにしても、 Traditionalism 的なセリフ書体 Sabon (1967) よりも、 戦間期に手がけた Transito (1931), Zeus (1931), Saskia (1933) の装飾的で Modernism というより Art Deco を思わせる書体に、意外な面を見たように思う。
時間が無く30分程度駆け足で観ることになってしまったが、それでも充分に見応えのある展覧会だった。