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Review: Suomen Kansallisooppera [Finnish National Opera] (prod.), Kasper Holten (dir.), Erich Wolfgang Korngold (comp.): Die tote Stadt 『死の都』 @ 新国立劇場オペラパレス (オペラ)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2014/03/23
新国立劇場オペラパレス
2014/03/18, 19:00-22:30.
Original by Georges Rodenbach. Libretto by Paul Schott (Julius Korngold, Erich Wolfgang Korngold). Music by Erich Wolfgang Korngold.
Conductor: Joroslav Kyzlink. Director: Kasper Holten. Sets: Es Devlin. Costumes: Katrina Lindsay. Lighting design: Wolfgang Goebbel.
Paul Klaus: Torsten Kerl. Marietta / Voice of Marie: Meagan Miller. Frank/Fritz: Anton Keremidtchev. Brigitta: 山下 牧子. Juliette: 平井 香織. Lucienne: 小野 和歌子. Gaston / Victorin: 小原 啓楼. Count Albert: 糸賀 修平. Marie (mime): Emma Howard. Gaston (dancer): 白髭 真二.
Chorus Master: 三澤 洋史. Chorus: 新国立劇場合唱団. Children chorus: 世田谷ジュニア合唱団. Orchestra: 東京交響楽団.
Production: Suomen Kansallisooppera [Finnish National Opera], 2010.

20世紀初頭のウィーン、そして、ナチスを逃れて亡命後はハリウッドで活動したユダヤ系の作曲家 Korngold による1920年に初演されたオペラ作品を、 イギリス Royal Opera House のディレクター Kasper Holten の演出で、 Suomen Kansallisooppera (フィンランド国立オペラ) が制作したもの。 オペラには疎いのだけれども、自分が特に興味のある戦間期の作品で、 岡田 暁生 『オペラの運命』 (中公新書, 2001) [読書メモ] でも 「「娯楽」としてのオペラの行き詰まり状況を端的に象徴する作曲家」として Korngold が取り上げられていたことが印象に残っていた。 英 The Guardian 紙で五つ星と評判も良かったので、足を運んでみた。

今回の演出で特に印象に残ったのは、 主人公 Paul の死んだ妻 Marie 役の女性を黙役 (mime) で舞台に乗せたこと。 これにより Paul、Marie と新たに出会った瓜二つの踊り子 Marietta の三人の関係が視覚化される。 第一幕の “Glück, das mir verblieb” (“Marietta's Lied” で知られる) の場面では、 Paul は始終 Marie の方を向いており、 Marietta が歌っていながら Paul は Marie が歌っているものとして聴いていることが示される。 表情や身振りの演技もあったのかもしれないが、むしろ、向きや立ち位置、スポットライトの当て方で、 三者の関係の揺れ動きが示される。 ベージュのコートを脱ぎ捨てると鮮やかな赤のドレスの Marietta と白いスリップドレス姿の Marie の対比も鮮明。 そんな演出に “Marietta's Lied” もあって、第一幕の Marietta が Paul の部屋を訪れる場面で、ぐっと作品世界に引き込まれた。 全体を通しても最も印象に残った場面だ。 DVD をリリースした Opus Arte のプロモーション動画 [YouTube] で、 この場面を観ることができる。

しかし、Marie に黙役を充てたことにより、愛する妻との死別の喪失感が薄れたようにも感じられた。 失われているわけではなく、黙り続けているだけで、Paul の側にいるのだ。 特に、第三幕の Marietta と Marie が直接対決する場面など、優柔不断な優男を挟んでの正妻と情婦の痴話喧嘩のようで、まるでメロドラマ映画。 Paul の喪失感の克服も夢落ちになってしまった。 今の自分の気分では、そういう部分もむしろ楽しんで観ていたのだが。

舞台美術も面白く、第一幕の妻の形見の並ぶ部屋を第二幕でどう転換するのかと思いきや、 そのままに家の形をした形見の箱を内部から暖色で光らせて、街中であることを見立てる演出。 舞台奥のブリュージュの街を空から見た風景も、写真かと思いきや模型で、照明で時間の変化を浮かび上がらせていた。 そんな移ろいを感じる照明演出が、第二幕の Marietta 達の乱痴気騒ぎの場面や、第三幕の合唱場面の大掛かりな 舞台を変形させての演出よりも、ツボにはまった。

音楽については、オペラに疎くその様式を細かく捉えることは出来ないし、演奏や歌唱の良し悪しも判断しかねた。 しかし、オペラというよりハリウッド大作映画のオーケストラを使った映画音楽を聴くようで、 そのストーリーや演出もあって、ゴージャスなメロドラマ映画を観ているかのようだった。 『オペラの運命』のような本で映画音楽はオペラの継承者とも言える存在という知識はあったけれども、 なるほどこういうことなのかと実感することができた。