スペイン・カタルーニャ州のバルセロナのカンバニーによる体験型演劇が 『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2014』中の演目として上演された。 このカンバニーの作品を初めて体験したが、 暗闇や照明を暗く落した空間の中で視覚以外の感覚を研ぎ澄まされるような体験だった。
最初にロビーで前口上のようなものを聞かされ、 続いて「よく生きるため」「よく死ぬため」の2つレッスン会場への入口のある薄暗い部屋に連れられ、 どちらに進むかを選ばされる。 そして、靴を脱いで目隠しされた上、会場へ導かれる。 何も見えない状態で座らされて、耳元で鳴るかのような音を聞かされたり、アロマのような匂いがしてきたり、暖かい湯で手を洗われたり。 視覚が遮断されているだけに、その他の感覚が鋭敏になっていることが実感できる。 暗闇の中で少人数グループに様々な体験をさせる Dialogue in the Dark [レビュー] さながらの展開だ。
目隠しを外された直後も部屋はほぼ真っ暗。10名程度ずつ輪になって座らされていることに気付く。 そして、近世の南欧の庶民風の服装をした俳優たちが、 暗い部屋に浮かびあがる白いクロスが掛けられたものをそれぞれの輪に運んでくる。 その見た目も死体を運んでくるようでもあるのだが、クロスの上から触らされて、おそらく食べ物だろうと気付く。 そして、テーブル周り薄っすら明るくなった中、クロスが除けられ会食が始まる。 グラスに飲み物を注ぐ音、乾杯のグラスの鳴る澄んだ音、野菜や果物を齧る音。 そして、マンドリン、アコーディオン、ハーモニカ、パーカッションの奏でるみ南欧風の音楽。 (おそらくカタルーニャ地方の音楽だと思うが、南仏やイタリアにも似たような音楽があり、 自分にはそこまで区別は付かない。) 会食の場面は、意外にも味覚や嗅覚以上に聴覚を刺激された。
会食の後はダンス。俳優に手を取られ、中央の空いたフロアに出て、楽団の演奏に合わせてゆったりとワルツに体を揺らせる。 途中からは他の観客と組んで。 暗い中で踊るのはクラブにも似ているが、薄明るく照らす明かりは暖色で、音楽も緩くアコースティック。 最近はオールナイトのイベントが辛くて足が遠のいているけれど、 演奏されていたような folk/roots の舞踊曲も好きですし、こういうダンスホールならありかもしれない、と。 (組んで踊るとなると、相手を見付けられずに、結局踊れない可能性が高いが……。)
ダンスが終わると、10人程度ずつキャンドルの明かりを囲んで輪になって座り、 俳優に紙と鉛筆を渡され、人生の最後のページの言葉もしくは絵を書くように促される。 天上には晒し木綿の服が一面に吊るされているのだが、 その中の一着に回収した紙を収めると、他の服に収められた書き込み済みの紙を取り出し、 キャンドルの仄かな明かりでそれを読むことになる。 やがて、俳優に手を取られて部屋を出て、靴を脱いだ部屋に戻り、パフォーマンス体験は終わる。
明るさを抑えて視覚以外の感覚を研ぎ澄まさせられる中で様々な体験をさせられる所は、 より演劇的な演出がなされた Dialogue in the Dark のよう。 しかし、「よく生きる/死ぬためのレッスン」というテーマにもかかわらず Dialogue in the Dark に感じた自己啓発臭さをあまり感じなかったのは、 体験が小集団の暗闇の中での課題解決のようなものではなく、 皆で食事して踊ってというものだったからだろう。 様々な感覚を豊かにして食事や踊りを愉しむこと、それが人生をよく生きる/死ぬことに繋がるんだ、とでもいう。 南欧の folk/roots 風の音楽や俳優の衣裳の作り出す雰囲気も好みだったが、 この体験を Dialogue in the Dark 以上に楽しめたのは、 そんなささやかに楽観的で快楽主義的な所があったからかもしれない。