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Review: 清水 宏 (dir.) 『家庭日記』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2014/05/18

昨年夏に東京国立近代美術館フィルムセンターで 『生誕110年 映画監督 清水宏』 があったのですが、その時はまだ戦前松竹映画にのめり込む前。 今から思えば、通って観ておきたかったものですが。そんな中から、 『アンコール特集:2013年度上映作品より』 でかかったこの映画を観てきました。

1938 / 松竹大船 / 白黒 / 99min.
監督: 清水 宏.
佐分利 信 (生方 (藤井) 修三), 高杉 早苗 (生方 品子), 上原 謙 (辻 一郎), 桑野 通子 (辻 卯女), トーチカ小僧 (その子・鐘吉), 三宅 邦子 (原 紀久枝), 三浦 光子 (その妹・八重子), 大山 健二 (久保), etc

あらすじ: 貧しいながら大学で医学を学ぶ藤井 修三は、学費のために恋人 紀久枝と別れて生方家に婿養子へ行く。 修三と幼馴染みで同じく医学を学ぶ辻 一郎は、実家は医者の名家だが、趣味の写真にのめり込み、女給 卯女と大連へ駆落する。 数年後、一郎は写真の仕事を見つけ妻子を連れて東京に戻り、大学で研究を続ける修三に家探しを頼む。 それを契機に辻夫妻と生方夫妻の付き合いが始まる。 また、大連時代に卯女が紀久枝と知り合ったことが縁で、 東京に戻り美容院を営む紀久枝と生方の妻 品子も知り合い、修三も紀久枝と再会する。 修三は一郎と実家の仲直りをさせようと、子・鐘吉を連れての里帰りする機会を設ける。 しかし、実家で鐘吉の病気が見付かり、一郎と鐘吉は実家に引き留められてしまう。 それを自分を除け者とする策略と思い込んだ卯女は、反発から家出してしまう。 一方、品子は夫と紀久枝が恋仲であったことを卯女から聞き、紀久枝の銀座出店を手伝う夫の事を疑うようになる。 子に会いに一郎の実家を訪れた卯女は、一郎の不在の間に一郎の父と直談判し、一郎の子ではないと嘘をついて子を取り戻そうとするも失敗する。 絶望した卯女は自殺しようとするが、一命を取り止める。 この事を通して、修三も卯女を一郎の妻として相応しいと認めるようになる。

ロマンチックなお坊ちゃん一郎 (上原 謙) と直情的ではすっぱな女給風情が抜けない妻 (桑野 通子)、 苦学した朴念仁の実利主義者 (佐分利 信) と育ちの良い上品な若奥様 (高杉 早苗)、という対比が絶妙。 それを演じる4人も当て書きと思う位 (吉屋 信子 の小説が原作なのでそうではない) のハマリ役で、実に楽しめました。 また、修三の学生時代の友人 久保 (大山 健二) と紀久枝の妹 八重子 (三浦 光子) のコメディリリーフもあり、笑いどころの配置も絶妙。 お涙頂戴ではなく、コミカルで皮肉が効いていて、けどちょっとしんみりさせるメロドラマでした。

佐分利 信 演じる修三は朴念仁な実利主義者というキャラクタは相変わらずながら、 お嬢様を諦めるのではなく、打算でお嬢さんと結婚するというパターンだと、朴念仁ぷりが嫌みになるなあ、と。 そんな酷い修三でしたが、当初は嫌って一郎が付き合うことすら反対した卯女を、 少しずつ理解するようになり、最後には辻の親に勧めることができると言うようになる、 その心情の変化に感慨深いものがありました。(その変化の心理描写はイマイチでしたが。)

この頃の 清水 宏 というと、 『有りがたうさん』 (1936) や『按摩と女』 (1938) [鑑賞メモ] のような作品性の高い映画がありますし、 確かにそちらの方が良いとは思いますが、『家庭日記』のような娯楽映画も悪くはありません。 画面の作りも、前半の家での場面などは平凡に感じましたが、 後半の八王子の場面、特に卯女が子供と再会する道の場面や卯女が自殺未遂する直前の山中の道を歩く場面など、 さすがロケ撮影巧者と思う美しさでした。