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Review: 『現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展—ヤゲオ財団コレクションより』 @ 東京国立近代美術館 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2014/07/06
Guess What? - Hardcore Contemporary Art's Truly a World Treasure: Selected Works from the YAGEO Foundation Collection
東京国立近代美術館
2014/06/20-08/24 (月休;7/21開), 10:00-17:00 (金-20:00).

台湾の大手電子部品 (受動素子) メーカー YAGEO Corp. の CEO Pierre Chen のコレクション YAGEO Foundation Collection に基づく展覧会。 最近のコレクターのコレクションということである程度予想していたが、 見事なまでに、特殊な画材を使ったものもあるが基本的に絵画と写真という平面作品ばかり。 最後の展示室に集められた立体作品も部屋置きサイズという、いかにもなラインナップ。 アートフェアが東京で再び盛んになりはじめた2000年代、 アートフェアに並ぶ作品が平面作品ばかりということにうんざりしたことを思い出してしまった。 といっても、アートフェアに比べて整然とした展示で定評のある作家が並ぶ分だけ、それなりに観られる展覧会だったが。 コレクターではないので実際の様子は知らないが、 21世紀に入って加熱する世界の現代アート市場、特に、個人コレクター市場で流通している作品の上澄みを覗いているような気がした展覧会だった。

今回の展覧会には「別の角度から楽しんでいただくためのガイド」があって、 50億円あるとしてそれを超えないように作品を選ぶという「コレクター・チャレンジ」というゲームが用意されている。 このようなやり方はアートフェアのガイドツアーとかではありがちだが、 ついに公立の美術館の展覧会までやるようになったか、と、感慨深いものがあった。 それにしても、アートフェアに来るある程度相場観や美術史観、市場知識のある人を相手にするならまだしも、 美術館の一般的な客を相手にそれをやっても、単なる山勘で作品を選ぶばかりで、思索を深めることにならない方が多いのではないだろうか。

複製芸術ではない美術作品においては、市場価格がレコードの売上枚数やチャートポジションのような指標になるのだろうとは思うが、 時代による変化や相対的なポジションも判らずに現在の相場の絶対値だけ見ていても、得られるものは少ないとは思う。 そういう点で、もし美的価値と経済的価値、社会的価値の問題を意識させたいのであれば、 例えば、1990年代頃と現在の相場の違いや、高値が付く作品の変化が判るような資料を配布した方が面白かっただろうと思った。

個別の作品では、それなりに興味深く観られる所もあった。 特に、「崇高 (Sublime)」と題された 杉本 博司 や Gerhard Richter が集められた部屋、 「威厳 (Dignity)」と題された Zao Wou-Ki の作品の部屋から、 Andreas Gursky や Thomas Struth の写真写真の部屋にかけては、 元々好きな作家や作風の作品が多く、なかなか楽しめた。 しかし、Richter や 杉本 の作品に「崇高」はピンと来なかったし、Gursky の写真もそれを選ぶかという感じで、 腑に落ちるというより微妙に違和感が残ったままになってしまった。