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Review: 荻野 茂二 (dir.) 『百年後の或る日』 (映画); 荻野 茂二 (dir.) 『AN EXPRESSION (表現)』 (映画); 荻野 茂二 (dir.) 『PROPAGATE (開花)』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2014/09/01

先週末日曜、ラピュタ阿佐ヶ谷のモーニングショーで開催中の特集上映 『戦前日本SF映画小回顧』 (8/10〜9/20) で観た7本の短編の上映の中から、荻野 茂二 の3本の鑑賞メモ。

『百年後の或る日』
1932 / 白黒 / サイレント / 7min.
監督: 荻野 茂二.
『AN EXPRESSION (表現)』
1935 / 彩色 / サイレント / 2min.
監督: 荻野 茂二.
『PROPAGATE (開花)』
1935 / 白黒 / サイレント / 3min.
監督: 荻野 茂二.

アマチュアの個人映画作家として活動した 荻野 茂二 の短編3本。 正直、経歴や背景についてはよく知らなかったのですが、 浅利 浩之 「荻野茂二寄贈フィルム目録」 (『東京国立近代美術館 紀要』 vol.18, pp.104-124., 2014) [PDF] が参考になります。

1935年の2本、『AN EXPRESSION (表現)』と『PROPAGATE (開花)』は、抽象的な実験アニメーション。 『PROPAGATE (開花)』は植物の開花に着想していますが『AN EXPRESSION (表現)』は題材も抽象。 René Clair, Hans Richter, Viking Eggeling などによる 戦間期1920s-30sの欧州アヴァンギャルドの純粋映画 (Cinéma Pur) は観た事がありますが (というかDVDを持っていますが)、その日本での対応物とでもいうもの。 この2作は、ブダペストでの国際コンテスト「サン・テチアンヌ杯」で一等を受賞しているとのことなので、 当時の欧州での動きを意識したものなのでしょう。 『AN EXPRESSION (表現)』の彩色のあるチカチカする幾何パターンの変化は、 戦間期の純粋映画を越えて、むしろ、Tony Conrad の “The Fricker” (1966) や “Straight And Narrow” (1970) など [レビュー] の戦後の実験映画のようにすら感じました。

『百年後の或る日』は、SF的な物語のある短編アニメーション (一瞬、効果的に実写も使われますが)。 1943年に戦争で死んで100年後の東京に蘇るという形で未来の生活を描いていて、 満州事変中の制作とはいえ「1943年に戦死」という設定の先見性に驚かされつつ、 過去の霊が乗っているため惑星間飛行のロケットが制御不能というオチが酷すぎる、 凄いのか酷いのか判断しかねる物語。 流線型や機械モチーフも多用し適度に幾何抽象化された人物像や建物など Art Deco を感じさせるもの。 特に、針で状態を指す表示板など当時のエレベータの階表示みたいで、ぐっときました。 物語よりも、そういうイメージが気に入りました。