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Review: 島津 保次郎 (dir.) 『朱と緑 朱の巻・緑の巻』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2014/10/15

シネマヴェーラ渋谷『日本のオジサマⅡ 佐分利信の世界』で上映されたこの映画を観てきました。

『朱と緑 朱の巻・緑の巻』
1937 / 松竹大船 / 白黒 / 131 min.
監督: 島津 保次郎.
上原 謙 (戸山 芳夫), 高杉 早苗 (松沢 千秋), 佐分利 信 (瀬川 清三), 高峰 三枝子 (船瀬 雪枝), 東 日出子 (増山 豊子), 岡村 文子 (雪枝の母 民子), 奈良 真養 (千秋の父 元彦), 河村 黎吉 (民子の義弟 橋本), 水島 亮太郎 (瀬川の父 善介), etc

あらすじ: 財閥重役 松沢家の令嬢 千秋の部屋への不審者侵入事件が発生し、その醜聞騒ぎと周囲の無理解に彼女はうんざりしている。 千秋の父をパトロンとして (妾として) 隣家に住む女性雑誌の女編集長 増山 の所へ、 かつて増山の家にお世話になった大阪のサラリーマン 戸山 が訪れている。 千秋は新聞記者に追われている所を 戸山 に救われ、彼女の立場に理解を示す彼に好意を寄せる。 彼女は自分名義の高額の株券を勝手に持ち出し、彼を追って大阪へ行く。 松沢に千秋を連れ戻すよう頼まれ、また、大阪での雑記企画のため、そして、彼女の持つ高額株券を密かに狙って、増山も大阪へ。 大阪で増山は雑誌企画のパーティのアレンジを戸山が下宿している家の 船瀬 民子 に依頼する。 船瀬の娘 雪枝は戸山に密かに好意を寄せていたが、戸山が千秋と相愛と知り、憂さ晴らしに競馬にハマるようになる。 千秋と同じホテルに偶然泊まった増山は、千秋を保護するふりをして、千秋から高額株券を盗み取る。 増山はこの金を頼りに松沢と縁を切り、戸山と結婚しようとするが、戸山には拒絶される。 千秋が株券が盗まれた事に気付いた所に、追って父がやって来る。 千秋は父と和解し別の宿へ移り、父は弁護士を使って増山から株券を取り返す。 雪枝は、戸山を千秋から別れさせようと、侵入犯 瀬川が千秋と親密な仲だったことを報じる新聞記事を 戸山の机の上に置くが、彼の気持は変わらず、むしろそのことを責められる。 やさぐれて戸山の金を盗んで競馬場に来ていた 雪絵 はそこで偶然 松沢 と出会い、食事に誘われ、そのまま一夜を過ごしてしまう。 松沢の部屋から 雪枝 が出て行く所を見た増山は、松沢に千秋と戸山の仲をばらす。 松沢は千秋の所へ行って戸山と別れるように言うが、千秋は拒絶し、その後現れた 戸山 と駆け落ちの約束をする。 雪枝 は 千秋 を訪れ、戸山を幸せにと告げたあと、自殺してしまう。 雪絵の自殺の原因は千秋を大阪に連れて来た増山のせいだと考えた船瀬は、雑誌企画のパーティへ乗り込んでめちゃくちゃにしてしまう。 千秋は 戸山 を待たず単身東京へ戻り、裁判所で瀬川を救う証言を行う。 雪絵 の自殺を契機に和解した 松沢 と 戸山 が追って現れ、戸山と千秋の仲は許される。

佐分利 信 特集での上映ですが、出演場面は10分程。むしろ、上原 謙 の映画でした。 いや、美男な優男 (上原 謙) を巡って火花散らす三人の女性 (高杉 早苗, 高峰 三枝子, 東 日出子) がメインのメロドラマ映画。 戸山 (上原) は千秋 (高杉) に一途だし今の職を捨てて駆け落ちする決意をする程だけど、 女性三人の方が遥かに積極的なので、受け身で振り回されているだけの男のように見えたり。 話全体は通俗的で、三人の女性像も思い入れ難いもの。始めのうちは退屈でしたが、 大阪に舞台を移してからの三人の女性の駆け引きは見所でした。 千秋を迎えに大阪に行った戸山に雪枝が付いて行って鉢合わせたり、 増山が戸山に親密に話かけている部屋に千秋が存在を示すように口笛吹いて入って行ったり、 という修羅場シーンが続きます。

高杉 早苗 に『風の女王』 [レビュー] の 布江 を思わせる無邪気に奔放なお嬢様ははまり役でしたが、 高峰 三枝子 の下宿先の純情で庶民的な娘という役は フラれて競馬にハマるという設定も含め彼女らしからぬもので、その意外さも楽しみました。 下宿する戸山を甲斐甲斐しく世話をしたり戸山の前でもじもじしたりする様子も可愛いし、どんな役でも寂しげな顔は美しいなあ、と。 客演の帝劇女優 東 日出子 にも期待しましたが、二人に比べると貫禄の年上の女。 ちょっと憎まれ役ではありましたが、そこもベテランだから演じられる味だったかな、と。

フィルム腐食で失われたかあちこちに少しずつ飛びが見られましたし、音が聴きづらい部分もありましたが、話を追うには全く問題ない程度でした。