正月の神保町シアターは特集 『痛快!豪快!娯楽の殿堂!無声ちゃんばら映画傑作選』。 というわけで、ピアノ伴奏、弁士付きで3本観てきました。
後にマキノ・プロダクションを設立する 牧野 省三 による、現存する最古の劇映画と言われる一本。 もともと数回に分けて制作されたものを、戦後に一本にまとめたものと言います。 さすがに、この頃の時代劇映画は、ズームもほとんど利用せずモンタージュによる演出も素朴。 討ち入りの場面にしても激しい殺陣というわけではなく、 上野之介を討ち取る場面にしても、戦いの中で討ち取るのではなく、捕らえてやりとりする中で殺すよう。 リアリズムというより型のような演技といい、 時代劇映画は旧劇 (歌舞伎) から発展したものと言われるのはこういうことなのか、と、興味深く観ました。
監督 二川 文太郎、脚本 寿々喜多 呂九平 という、 前年に『雄呂血』 [レビュー] を作ったコンビによる時代劇映画。現存する後編のみの上映でした。 冒頭の場面こそ大掛かりな「ちゃんばら」を堪能しましたが、 主人公 鵜形が恋に煩悶するようになってからは、殺陣の場面がほとんどなくなり、少々物足りなく感じました。 フィルム腐食のせいか一部失われている場面もあり、話に入り辛いものがありました。 ただでさえ御都合主義なエンディングが、失笑してしまうレベルになってしまいました。
日本映画においてもトーキーへの移行が進んでいた1935年に制作されたチャンバラ映画。 フィルムの状態が悪く、白く飛んだような画面になってしまうことも少なくありませんでしたが、 がっしりとした 羅門 光三郎 の迫力あるちゃんばらが楽しめました。 前に観た二本に比べると、話運びにも無理がなく、見せ場の「鍵屋の辻の決闘」の場面も、 単純に緊張感と迫力を高めるばかりではなく、見物する伊賀の殿様やその家来の滑稽な場面をはさんで、 時々緊張を緩めたりするなど、演出も洗練されているように感じました。
『忠臣蔵』と『美丈夫 後編』二本立ては ピアノ伴奏 柳下 美恵、弁士 片岡 一郎、 続く『剣聖 荒木又右衛門』は ピアノ伴奏 神崎 えり、弁士 坂本 頼光 でした。 やはり、無声映画を生伴奏弁士付きで観るのは楽しいものです。特に、ちゃんばら映画は弁士付きがはまります。 今回観た三本の中では、『剣聖 荒木又右衛門』での 神崎 えり のピアノが良かった。 松竹映画での感傷的な演奏も良いのですが、緊張感ある場面にアウトな展開になったり、と、ちゃんばら映画らしい音を聴かせてくれました。
しかし、ピアノ伴奏、弁士付きの上映もあって期待以上に楽しめましたが、 やはり日本映画史的な興味が先行していたのは否めないところ。 戦前松竹映画のようには戦前ちゃんばら映画はまだまだどう楽しんだら良いのか掴めていない、 と痛感もしました。