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Review: 『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』 Frederick Wiseman (dir.): National Gallery (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2015/01/18
2014 / France/USA / 181min / vista / color.
un film de Frederick Wiseman.

Frederick Wiseman によるドキュメンタリー映画の最新作は、 19世紀までの西洋の名画を数多く収録するイギリスの美術館 National Gallery を取り上げたもの。 パリのキャバレーでの Philippe Decouflé 演出のショーの制作を追った Crazy Horse (2011) が良かったので [レビュー]、映画館へ足を運んでみた。 美術館を取り巻く制度を浮かび上がらせたり、プロジェクトをめぐる人間ドラマを描くというより、 ギャラリートークの様子を多く取り上げ、それを通して、美術作品を鑑賞する——作品や展示を読み解く楽しさを示すかのような映画だった。

映画の始まり近く、美術館の運営に関わる会議の場で美術館前のトラガルファー広場をゴールとするチャリティ・マラソンに協力すべきか議論する様子が捉えられる。 しかし、その後、そのチャリティ団体とどのように協議を続け、最終的にどのように実行されたのか、追うことはない。 確かに館長をはじめ繰り返し登場する人物はいるが、その人の一日の仕事っぷりを追ったり、人柄を窺わせるエピソードを入れる事はない。 そもそもプライベートを追う場面は全くないのだ。 様々な展開会が取り上げられるが、ある特定の展覧会に焦点を当てることも無ければ、企画から始まる準備を追うような事もない。 映画で取り上げられる展覧会を企画した学芸員の話は、準備の苦労話ではなく、 むしろ、会期中に展示を通して発見があったかというものだ。

映画の中で多くを占めるのは、ギャラリートークなどで、学芸員が作品の前で作品について語る様子。 もしくは、講演会、視覚障害者向けの鑑賞プログラムや、一般者向けのデッサン教室、修復スタッフの議論や見学者への説明、など。 そこでの解説や議論を通して、絵画作品や展示の鑑賞する様々な着眼点が示されていく。 構図や色使いはもちろん、作品が制作された背景、作品が National Gallery にやってきた経緯、ギャラリー内での作品配置など。 絵画に描かれた楽譜は何なのかといった、ディテールに関する話も面白かった。

特に印象に残ったのは、作品の設置場所の光の問題。 宗教画を前で「13世紀の教会で、微かに差し込む光や揺らぐ蝋燭の光で観ていると想像してみて下さい」というギャラリートークの様子が 映画のはじめの方で捉えられるのだが、 中盤でそれが Rubens: Samson et Dellilah (1609-1610) の設置場所の光を想定した演出の話へ。 そして、終盤での展示室での照明の調整の様子に繋がり、作品設置場所の光の問題を多角的に浮かび上がらせていた。

確かに、美術館の財政を議論する会議、オープニングパーティ、人気の展覧会での開館待ち行列、美術館のファサードでの抗議活動なども差し込まれるが、 むしろそれは、絵画作品をどう読み解くかに関する話のインターリュードだった。 実は、2012年に Cultural Olumpiad の一環で行われた Royal Ballet のダンサーが美術館で踊る場面 (最終的に、Metamorphosis: Titian 2012 という作品となった) も期待していたのだが、そのメイキングの場面もほどんど無く、 16世紀イタリアの画家 Tiziano [Titian] の Diana に関する3枚の絵画の前で Edward Watson と Leanne Benjamin がコンテンポラリーな男女ペアのダンスを踊る様子がエンディングに使われただけだった。 映画の中ではまるで早回しのような早い動きだったのだが、実際のところはどうだったのだろう。

途中休憩無しで3時間という上映時間は長く、座り疲れたのは確か。 しかし、確かに図版などで見たことある有名な作品が多いものの、19世紀以前の西洋絵画はおおまかな歴史程度しか知らなかったので、 様々な鑑賞のポイントに気付かされることが多く、最後まで飽きずに観ることができた。 興味深そうに、そして楽しそうに学芸員等のスタッフたちが作品を語る様子を見て、改めて、作品を読み解く楽しさを思い出させられた。 そんな良質なギャラリートークを体験するような3時間だった。