第7回恵比寿映像祭の最終日駆け込みで、 ブラジルの映画を二本観てきました。
戦間期のサイレント末期に制作された実験的なサイレント映画。 1960年代ブラジルの映画運動 Cinema Novo の関係者も観る機会が無く幻の映画に近い扱いだったが、 その後、フィルム修復されて上映され再評価されるようになったという。 今回の上映されたのは2007年の World Cinema Foundation 修復版で、オリジナルスコアに基づく音楽付きだった。
洋上を漂う小舟に乗った男性1人女性2人が、それぞれの過去のいきさつを回想して語るかのような物語。 1929年の欧州滞在時に見た雑誌 Vu 74号の表紙に使われた André Kertesz による手錠された女性の写真のイメージに触発された映画とのことで、女性の一人は脱獄者という設定。 三人の極限状況に不条理さも感じるような映画だった。 しかし、その物語の寓意性等よりも、映像の美しさに引き込まれた。 ブラジルの熱帯の荒々しい自然の中で野外ロケされた、 当時のヨーロッパのアヴァンギャルド映画に強く影響を受けた極端な構図を駆使したコントラストの強い白黒映像に、 エキゾチズムとモダニズムの混交を見るよう。 Claude Debussy や Igor Stravinsky などの音楽使いに Ballet Russe の影響も感じた。 ゆったりと漂うようなリズムの美ししくも悪夢的な映像を堪能した。
この Limite は、2010年にノルウェー・オスロで、 Bugge Wesseltoff, Rodolfo Stroeter, Naná Vasconcelos, Henning Kraggerud, Marlui Miranda という編成での生伴奏付き上映が行われたよう。 そのときの様子の一部を YouTube で観ることができる。 今回のオリジナルスコアに基づく音楽も良かったが、この生演奏のバンドの編成もとても興味深く、 この生伴奏付き上映が来日してくれればと、つくづく思う。
1950年代の新具体主義 (Neoconcretismo) の文脈で活動し始め、 1960年代末の音楽を中心とした芸術運動 Tropicália (Tropicalismo) に直接影響を与えた インスタレーション作品 “Tropicália” (1967) で知られる ブラジルの現代美術作家 Hélio Oiticica (1937-1980) の1950年代から1970年代の活動を辿る ドキュメンタリー映画。 監督は Hélio の甥で、生前に残した自身による言葉の録音や映像をふんだんに使い、 まるで本人の回想 (というかアーティストトーク) を聴いているかのよう。 私的ではないがかなり主観的に Oiticica を描いたドキュメンタリーだった。
Hélio Oiticica の作品はブラジル現代美術の展覧会等でそれなりに観る機会があったが [レビュー]、 インタラクティヴな楽しさはもちろんあるが、 はっきり鮮やかな色彩とスッキリしたフォールムにモダニズムを強く感じていた。 しかし、このドキュメンタリー映画で、 1960年代から70年代にかけてのサイケデリックなカウンターカルチャーにどっぶり漬かったような 生き方をしていた作家だったということに気付かされた。