神保町シアターの 『松竹120周年記念 百花繚乱――昭和の映画女優たち』 で上映されたこの映画を観てきました。
あらすじ: マレーから還った軍医 中瀬古 庄平 は大阪へ帰る列車で、父を亡くして交換船で帰ってきた若い女性 辻 節子 と相席となる。 庄平 は夕陽ヶ丘の実家に戻ると、児童療養施設の資金のため財産を譲って欲しいと父に掛け合う。 父は財産だけでなく、嫁ももらえと、庄平に一週間後の日曜に見合いを約束させる。 庄平は慰問袋をくれた女性を訪れようと、町中で国民学校の女性教師 (小谷 初枝) に道を訊ねる。 そこで、偶然 節子 とも再会するが、庄平は挨拶もそこそこ行ってしまう。 庄平が慰問袋の送り主の家 (町のレコード店) を訪れ、送り主はその店の主人の妻で、1年ほど前に亡くなっていたことを知る。 日が変わって、庄平は児童療養施設設立準備のために京都に向かうはずが、間違えて奈良へ行ってしまう。 そこで、再び偶然に節子と遭うが、庄平はそこでも会話もそこそこに別れて、知り合いのいる療養所へ向かう。 その後、庄平が実家に戻ると、節子が家を訪れていた。 節子は父がハワイへ行く前に処分してしまった家宝の仏像を探し歩いており、現在その仏像は庄平の父の持ち物になっていた。 庄平の父は、その話を聞いて、その仏像をただで節子に譲ることにする。 その後、庄平が神戸の工場の病院を訪れると、その工場で働き始めた節子がいた。 庄平は節子に、児童療養施設設立の夢と、見合いの予定があることを話す。節子はその話を聞いて、庄平への諦めがつく。 土曜日、庄平は中学校時代の友人の妹 尾形 清子 (小谷 初枝 と同僚の教師) に会いに学校へ行くと、運動会中であった。 そこで、庄平は飛び入りマラソンに参加することになり、優勝してしまう。 アナウンスをしていた 初枝 は、名前で優勝した人が自分の見合い相手であることに気付く。 庄平は、清子と会い、自分が看取った尾形の最期を伝える。 翌日、返し忘れた巻脚絆を返しに庄平が学校へ行くと、初枝が日直で一人職員室にいた。 庄平は日直当番の名前を見て彼女が見合い相手の女性であることに気付くが、話もそこそこに立ち去ってしまう。 庄平が家に戻ると、初枝から電話があり、預かったゲートルには庄平の名前があると告げられる。 庄平は間違いに気づき、さらに、今晩見合いを初枝と見合いをすることになっていることを告げ、慌て者の自分は及第か尋ねるが、返事ない。 返すべき巻脚絆を持って学校へ向かうと、ちょうど初枝が出てきたところだった。 初枝は庄平に国民学校には落第は無いと告げ、 庄平は初枝に児童療養施設を手伝って欲しいと言うのだった。
マレー帰りの軍医 庄平 が見合いをするまでの一週間を、 ドラマチックな展開ではなく、細やかなエピソードを積み重ねるように描いた映画。 といっても、初枝は頭の方から登場しますが、庄平の見合い相手が誰かは運動会後までわからない展開で、 偶然の出会いが続く美女 節子をどう物語に回収するだろうか、と、物語に引き込む仕掛けもありました。 結婚や女性に無頓着な周平と、そんな周平に淡い好意と寄せる節子、レコード店の娘 葉子、そして、初枝の間のギクシャクしたやりとりを、細やかなユーモアも交えて描いていました。 兄を亡くし南方に日本語教師として行こうとする清子と彼女に好意を寄せる新聞記者 峰谷の関係や、 レコード店を畳んで名古屋の軍需工場へ働きに行くことにする矢野一家など、 サイドストーリーが集約することなく、軽く接点を持ちながら併進します。 確かに、国のために働くことの重要性を説くセリフや、国民学校での竹槍の練習風景など、戦中、それも末期を思わせる雰囲気もありましたが、 全体としては、ささやかなユーモアを感じるとても平穏な映画でした。
女優に注目して観ると、軍医の見合い相手の役の 田中 絹代 がヒロインなのでしょうが、 庄平と「仏像に導かれた」かのように偶然の出会いを続ける美女役の 三浦 光子 がいいなあ、と。 五所 平之介 (dir.) 『伊豆の娘たち』 (松竹大船, 1945) [鑑賞メモ] といい、この頃の三浦 光子は良いですね。