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Review: Inbal Pinto & Avishalom Pollak Dance Company: Dust @ 彩の国さいたま芸術劇場 (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2016/01/31
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2016/01/30, 15:00-16:00.
Choreography, Costumes, Set & Music Design: Inbal Pinto, Avishalom Pollak.
Lighting & Set Designer: Yoann Tivoli. Illustration & Animation: Roni Fahima, Shimrit Elkanati.
Performers: Zvi Fishzon, Ariel Gelbart, Noga Harmelin, Cordelia Lange, Amit Marsino, 森山 未來 [Mirai Moriyama], Moran Muller.
Premiere: 12 March 2013, Internatioal Exposure for Dance, Suzanne Dellal Centre, Tel Aviv, Israel.

イスラエル・テルアビブ (Tel Aviv, Israel) の Inbal Pinto & Avishalom Pollak Dance Company は、 抽象的なダンスというより、マイム的な動きも駆使してユーモラスで幻想的な舞台を作り出すカンパニーです。 そんな彼らの約3年ぶりの来日公演を観てきました [前回の鑑賞メモ]。

冒頭、洪水で壊滅した町で周囲の水没した学校らしき建物の中で、生き残った女の子が泣いている、 そんな状況を思わせるアニメーション映像で舞台設定が説明されます。 舞台セットは近代的な学校の教室風で5組の学校用風の机とだぶっとした白いパジャマを着た5人の男女。 そこに、青い服を着た男が登場します。 5人の生徒に対する先生、という風情ですが、青服の男は自立するのもままならない状態。 ぐにゃぐにゃと動く男を、5人が支えたり往なしたりして、なんとかしている、といったところ。 もう一人、ほとんど絡まないものの舞台に存在する死神風の黒い人物もいます。

そんな7人によるダンスが中盤では明確な展開も感じさせずに続くのですが、 ついに青服の男がぐにゃぐにゃな椅子を支えにすることができずに倒れ込んでしまいます。 パジャマを着て座ったダンサー5人のうち、下手の女性がパニックを起こしたように踊り、 中央の女性が大声を挙げて泣き出します。 死神風の人物が中央に来て、天井から大量の紙が降って、舞台の雰囲気は一転して荒んだ雰囲気に。 死神風の人物を舞台左手に祀るかのようにして、中央で残る6人が手を取って踊って終わりました。 少々中弛みしたようにも感じましたが、 中央の女性が泣き出してからの展開には、ぐっと引き込まれました。

壊滅した町で生き残った先生と生徒5人が校舎で生活していて、 頼りにならない先生に対して、子供達が何とか頑張っているのですが、最後には子供達もキレてしまう、といった物語でしょうか。 冒頭のアニメーションの中で泣いていた女の子が、舞台の終盤で泣いたダンサーということであれば、 生き残ったのは彼女だけで、そんな物語も残りの6人も全て彼女が見た幻影ということなのかもしれません。

自分が小学生だった1970年代はまだ冷戦期、 全面核戦争もしくはそれに類した終末的な戦争を生き残った子供たちを主人公とした物語というのは、ジュブナイルSFの定番の一つでした。 この作品の設定は終末戦争でなく洪水ですが、そんな1970年代のポストアポカリプスなジュブナイルSFの一つを 幻想的なイメージで観ているようでした。 すっきりモダンな教室のような舞台セットも、その手のジュブナイルSFのイメージに合致していました。

この作品には絵本作家が参加していて、そのアニメーションをどう使うのかという興味もありましたが、さほど大きくフィーチャーされてはいませんでした。 作品の最初のアニメーション映像は、単純に背景のスクリーンに投影したりせずに、 ダンサー2名が両端の旗竿を持つ白い横断幕様のものに投影するなど、工夫を感じました。 こんな感じで、プロジェクションマッピング的に所々で意外な所に投影されるかもと期待しましたが、 以降のビデオの使用はありませんでした。 一方で、中盤で、物理的なパタパタ・アニメーションを使ったのには意表を突かれました。

前回観たときは客層は気にしなかったのですが、 今回、普段コンテンポラリー・ダンスで見ないような客が多いように感じました。 これは、森山 未來 の人気なのでしょうか。 それとも、Inbal Pinto & Avishalom Pollak の演出によるミュージカル 『100万回生きたねこ』からの流れなのでしょうか。