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Review: 『恩地孝四郎展』 @ 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー (美術展); 『ようこそ日本へ:1920‐30年代のツーリズムとデザイン』 @ 東京国立近代美術館 ギャラリー4 (デザイン展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2016/02/13
Onchi Koshiro
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー
2016/01/13-2016/02/28 (月休,月祝開,翌火休), 10:00-17:00 (金10:00-20:00).

戦前1910sから戦後1950sにかけて活動したモダニズムの版画を主に制作した美術作家 恩地 孝四郎 の回顧展。 初期の関東大震災前の『月映』を発行していた頃は表現主義やキュビズムの影響色が濃く、試行錯誤している感が強く感じられたが、 震災後、題材もダンスホールやカフェーなどの都市のモダンな文化・風俗を題材に得て、ブックデザインや写真も含めて一気にモダンに。 音楽に着想した幾何学的なコンポジションや、ブックデザインにおける写真使いやタイポグラフィなど、モダニズムな作品が多く楽しめた。 戦後は色使いも明るい抽象版画が中心となり、安定感はあれど少々面白みに欠けた。 恩地としての強烈な個性を感じたという程ではないが、 震災後戦前のモダン都市東京の雰囲気を感じられた展覧会だった。

Visit Japan: Tourism Promotion in the 1920s and 1930s
東京国立近代美術館 ギャラリー4
2016/01/09-2016/02/28 (月休,月祝開,翌火休), 10:00-17:00 (金10:00-20:00).

戦前の日本における旅行や観光に関するポスター、パンフレットなどのグラフィックデザインを集めた展覧会。 『アールデコ展』 (東京都美術館, 2005; Art Deco, 2003) [レビュー] の第五部は「交通の発達と世界への広がり」だったのだが、まさに、その日本版という内容。 川瀬 巴水 の浮世絵の流れを組む近代風景版画から、アールデコ色濃いグラフィックまで。 外国向けの日本観光ポスターと、日本国内向け台湾朝鮮満州南洋のポスターに、オリエンタリズムの両面を見るよう。 特に、満鉄こと南満州鉄道の制作したポスターが多くあり、興味深く見ることができた。 オリエンタリズム的なステロタイプはあれど、素直にモダンな文化を謳歌している勢いで見せてしまうような所もあって、観ていて引き込まれた。

ギャラリーで鉄道省国際観光局による宣伝映画 Three Weeks' Trip in Japan (『日本三週間の旅』, 1936, 25min, 白黒トーキー) が液晶モニターで上映されていた。 横浜に上陸して、日光、箱根や奈良、京都を経て、九州の別府、阿蘇、雲仙まで。 ポスターほど日本趣味を感じさせず、当時の日本映画と雰囲気が変わらず、 フラットに日本観光の魅力を捉えているようで、とても楽しめた。 客船、鉄道や自動車を使ったモダンな旅行の様子、特に、Frank Lloyd Wright 設計の帝国ホテルの当時の様子が垣間見るようで、興味深かった。 この映画の制作は松竹が請け負っており、さりげなく松竹の俳優が出演いることにも気付いた。 さすがに、主役級の俳優は出演していなかったと思うが、例えば日光の場面では 森川 まさみ が出演していた。 監督等のクレジットは無かったが、誰が撮ったのか、少々気になった。 乗合バスの車内の場面などもあり、野外ロケを得意とした 清水 宏 の映画を連想させられた。 思えば、この宣伝映画は『有りがたうさん』 (松竹大船, 1936) [レビュー] と同じ年の撮影。 このような映画制作のノウハウも、観光宣伝映画に生かされているのだろう。 そういう点でも興味深い映画だった。

『恩地孝四郎展』と『ようこそ日本へ:1920‐30年代のツーリズムとデザイン』を合わせて、 1920年代から30年代にかけてのモダンな日本を雰囲気を堪能することができた。