若手作家を紹介する原美術館のプロジェクト「ハラ・ドキュメンツ」の第10回。 佐藤 雅晴 [tumbler] は 実写映像や写真をトレースして制作したアニメーション映像、ドローイングを作風とするとのこと。 この展覧会で初めて観ました。
入ってすぐのギャラリー1の「Calling ドイツ編」 (2009-2010)、「Colling 日本編」 (2014) は、 作家が10年間滞在したというドイツと、戻ってからの日本の 人気の無い街などの風景の中で携帯電話や公衆電話が鳴るようすを描いたアニメーション。 人物が写っていないということもあるのか、ぱっと見、実写と感じられるような映像でした。 1970年代の絵画に Superrealism も少し連想しましたし、 1980年代の Simulationism のアニメーション版と感じられるところも。 しかし題材はポピュラーに流通するイメージのようなものではなく、 むしろ受け手のいない電話のコール音という状況から感傷的で私的な物語がほのかに立ち上るようでもありました。
「東京尾行」 (2015-2016) は、実写とアニメーションを組み合わせた映像。 アニメーション部分は「Calling ドイツ編」などと違い、むしろフラットな色面による絵。 メインの建物や人物を抜き出してアニメーション化していることもあり、フラットさが際立ちます。 都心の皇居周辺の風景などの何気無いスナップ映像を短いループで回していることもあり、 スナップ写真的な「液晶絵画」 [関連レビュー] だな、と。
「トイレットペーパー (ナイン・ホール)」 (2012-2013) トイレットペーパーの写真を元に描いた絵画 Gerhart Richter: “Klorolle” (1965) を参照したという、 現代美術らしいネタのアニメーション。 Richter のような絵画的なテクスチャを感じるものではなく、むしろフラッットな描き方でした。
実写映像の精緻なアニメーション化という所など興味深く観たのですが、 扱っている題材が少々私的に感じられ、自分の興味とすれ違ってしまったようにも感じた展覧会でした。