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Review: 清水 宏 (dir.) 『女醫の記録』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2016/05/01

シネマヴェーラ渋谷 の特集上映『孤高の天才 清水宏』で、この映画を観てきました。

『女醫の記録』
1941 / 松竹大船 / 95 min / 白黒.
監督: 清水 宏
田中 絹代 (夏木女醫), 森川 まさみ (本間女醫), 佐分利 信 (神谷訓導), etc

あらすじ: 夏休み中の奉仕活動として東京女子医学専門学校の女子医学生たちが女医に率いられて山あいの無医村へやってくる。 受け入れた村の分教場の訓導の神谷先生は都会出身の青年。 先生としてだけでなく、村のよろず相談事に乗り、因習や迷信に囚われがちな村人の生活を改善しようとしてる。 女子医学生や率いる女医たちは健康診断や治療を通して村の問題に直面していく。 出稼ぎに出た娘や息子が都会で結核となって帰ってくることで、村には結核が蔓延している。 衛生という概念がなく風呂に入る習慣すらない村人たちは、 金を取られると健康診断や治療をいやがり、結核を家の恥と思いツベルクリン検査を拒むが、 その一方で、祈祷をする行者を呼ぶ。 その行者は実は出稼ぎの手配師でもあり、体の弱い娘を女工として人買しようとする。 日差しと風を遮り不衛生の原因となっている家を取り囲む木を、先祖に申し訳ないと切ろうとしない。 そんな問題に、女医たちと神谷先生が、村人の抵抗も受けつつ、 抵抗する村人の立場も慮りながら、しかし時として毅然とした態度で取り組んでいく。 そして、夏休みの終わり、夏木女医は村に残ることを決心する。

近代的な医療や衛生を啓蒙するドキュメンタリー映画のような内容ながら、 暑苦しかったり、嫌味だったり感じなかったのは、 子供の視点を上手く使った淡々とそしてちょっぴりユーモラスな描写と、 ロングショットを多用したゆったりとしたテンポの美しい画面のおかげでしょうか。 「こんな所で燻って焦りは感じないのか」と問う夏木女医に 「焦りや寂しさを感じたときは尺八を吹く」と答える神谷先生。 神谷先生の身の周りの世話の仕事を子供たちから取ってしまったことを子供に詫びる夏木先生。 そういったエピソードも、夏木女医や神谷先生が、 絶対的に正しいことに迷いなく取り組んでいるというわけではないことを浮かび上がらせるよう。

夏木女医を演じた 田中 絹代 ももちろん良いのですが、 神谷訓導を演じた 佐分利 信 がとてもカッコ良いのです。 熱さを秘めた朴訥な好青年というのは、彼のハマり役の一つですね。 この二人の仲を、 これこそ『女醫絹代先生』 (松竹大船, 1937) [鑑賞メモ] のような 男女の恋仲として描くことも出来たでしょうに、 むしろ村の因習や迷信と闘う同士のように描いていたのも良かったし、 佐分利 信 の朴念仁な雰囲気が良い意味で生きていました。