メキシコ革命とその後の内戦の混乱が沈静化した1920年代半ばに活動を始め、 晩年の1990年代末まで活動を続けたメキシコの写真家 Manuel Álvarez Bravo の個展。 活動を始めたのが1920年代ということで、作風のルーツは新即物主義的とすら感じるモダニズム。 1920年代から1930年代にかけてのメキシコは、Diego Rivera らによる壁画運動が盛り上がっていた頃。 メキシコ革命への関心もあって欧米の文化人も多く訪れていた時代。 Álvarez Bravo はそういった芸術家や文化人との交流もあり、彼らのポートレートも多く展示されていました。 しかし、Álvarez Bravo は革命やその後の社会主義の熱狂を感じさせない、むしろその対極にある淡々とした作風でした。
寓意やユーモアを感じさせる写真なのですが、1960年代末以降のナラティブな写真ほど物語性が強くありません。 モダニズムが出発点らしい抽象度の高い余白の多い画面に、 人物や物を控え目に写し込むその象徴性とちょっとしたユーモア、そしてタイトルの妙もあって、 詩情が湧き上がってくるような写真でした。 特に1940年代から1960年代の写真にそんな面白さを感じる写真が多く、楽しめました。
スライドによる資料展示でしたが、日本人で後半生をメキシコで過ごした Seki Sano (佐野 碩) の作で、 アメリカ出身でメキシコで活動した女性舞踊家 Waldeen Falkenstein 振付・出演による舞踊劇 La Coronela (1940) の様子を捉えた一連の写真が展示されていました。 佐野 碩 については桑野塾で報告を聞いたことがありましたが、 その際はどんな作品を作っていたかの話がほとんど無かったので、 その作品の様子を垣間見るようで興味深く見ました。 Álvares Bravo の写真の作風より壁画運動の方に関連性の高い表現だったのかな、と。