伊香保保科美術館のコレクションから500点以上を展示した 大正末期から昭和初期にかけて京都の土産物店 さくら井屋 の絵葉書・絵封筒の木版絵師 小林 かいち の展覧会です。 小林 かいち の作品は 『大正イマジュリィの世界 —— デザインとイラストレーションのモダーンズ』 (渋谷区立松濤美術館, 2010) [レビュー] などで観る機会もありましたが、これだけまとめて観たのは初めて。 この時代のデザイン、イラストレーションの中では好みとはいえ、 絵葉書、絵手紙という限定的なフォーマットもあって単調に感じたのも確か。 その一方で数をまとめて観ることで気付かされたこともあった展覧会でした。
同時代のアール・デコや表現主義の影響を伺わせる作風で、 後ろ姿、俯き顏、シルエット等を多用し顔がほとんど描かれない細身の女性像が特徴的です。 その多くが若い女性が嘆く姿を描いていて、抒情的というよりなんともメロドラマ的。 時代的にも、まさに戦前松竹メロドラマ映画と重なる世界に感じられました。 トランプ等のモダンというか洋風の意匠の多用もあって、モガな女性を多く描いていそうと思っていたのですが、半分近くは和装の女性でした。 また、特にキリスト教信仰の文脈ではなく、むしろモダンで洋風の意匠という意味で、十字架や教会のイメージも多用していたというのも、 当時のキリスト教に対するイメージを伺わせるよう。 ゴンドラのモチーフも多く、これは「いのち短し 恋せよ乙女」という歌い出しで当時流行した『ゴンドラの唄』をうけたものとのこと。
アールデコ風のモダンな図案の絵葉書は「現代的版画抒情絵葉書」と名付けられていたのですが、 「現代的」が付かない、京の名所や舞妓を描いた「版画抒情絵葉書」も作成していたとのこと。 こちらの作品は、「市松見立舞妓」のようなモダンなデザインのものもありましたが、 木版ということもあって、むしろ浮世絵的。 ここから振り返って「現代的」なものを見直すと、モダンな意匠のようで、大胆な構図や背景のグラデーション使いなど浮世絵からの流れも感じられました。