1960年代末からヨーロッパを拠点に活動する俳優/演出家 笈田 ヨシ の日本での初オペラ演出作品。 日本制作とはいえ、ヨーロッパでオペラ演出も手がける演出家によるオペラという興味で足を運んでみました。 演目は1904年 Teatro alla Scala で初演された『蝶々夫人』 (Madama Butterfly)。
第2幕以降の蝶々夫人にモンペを着せるなど19世紀末から20世紀半ばに時代を移しているものの、 大胆に現代に置き換えたりすることなく、解釈や演出に意外さは感じられませんでした。 大掛かりな舞台装置や映像を駆使したり、象徴的なイメージだけのミニマルな表現にすることなく、物語が素直に伝わってくるように感じた演出でした。 Royal Opera House や Metropolitan Opera の event cinema で、 Robert Lepage とかの金のかかった奇抜な演出のばかり見過ぎだと、少々反省。 後方に半透明の幕を下げて舞台の奥行き感を殺してしまった上、その幕の後ろでの演技の存在感が薄かったのは惜しかったものの、 第1幕の Madama Butterfly と Pinkerton の初夜の場面は、薄暗い中の行灯の光の並びも美しく、赤と白を基調とした床もエロティックで、印象的。 第2幕末から第3幕頭の Pinkerton を待つ夜の場面も、明度の変化だけでなく、衝立から漏れる光も使った美しい演出でした。
『蝶々夫人』は、ジャポジズムやオリエンタリズムの文脈で言及されることの多い作品 [読書メモ] というだけでなく、 他の作品でネタとして使われることも多いので、今回の公演で、一度ちゃんと観ておこうというのもありました。 第2幕の始めの方で歌われる有名なアリア Un bel dì vedremo 『ある晴れた日に』 はなるほどこういう場面の歌なのか、と。 当時最新の照明技術 (電気照明) を使って夕暮れから曉までの光の変化を14分間全く歌、セリフ無しで見せたという 第2幕末から第3幕頭の場面も実感することができましたし、 観ていていろいろ勉強になりました。