Pina Bausch 没後、Pina Bausch の作品を動態保存するカンパニーとして活動を続ける Tanztheater Wuppertal。 前回2014年の Kontakthof [レビュー] に続いて、 今回も1989年の来日公演で上演した Nelken の再演。 もちろん1989年の来日公演は観ておらず、今回、初めて観た。 スーツ姿とイブニングドレスの男女が、ダンサーの私的な語りを交えつつ、時に遊び (1, 2, 3, Soleil とか) を舞台の上で繰り広げ、時に一列に並んで歩み進めるように踊る、 というスタイルは、 Kontakthof や Nelken の作られた1980年前後には既に完成していたのだなあ、と。 当時は斬新だったのだろうけれど、今から観ると Pina Bausch 定番の演出も目に付く。
それでも、Kontakthof よりも遥かに楽しめたのは、愛に関するテーマというより、舞台美術の良かったから。 カーネーション (生花ではなくプラスチックの造花ですが) を整然とずらと植えた花畑のような舞台は、それだけで見応えあった。 単に見た目だけでなく、花が植わっていることで、ダンサーの動きが変わってくる。 最初のうちはできるだけ倒さないようにと、抜足差足でゆっくり動くのだ。 Jacques Tati の映画 Trafic の冒頭の場面で ワイヤを避けるために所々で抜足差足する動きを面白く観せていたのを連想させられた。 同様なもので、カンパニー名や作品名は失念したが舞台上膝下くらいの高さに格子を組んで抜足差足の動きをさせる作品というのを動画だかで観た記憶がある。 しかし、ダンサーにユーモラスな動きを強いる仕掛けとして、抽象的ものではなく、花畑を使うというのは洒落ていると、つくづく感心。 さらに、どんどん花は倒れていき、ダンサーも次第に花を倒さないような動きはしなくなっていく、そんな変化も面白かった。 そして、開演前の整然とした花畑と、終演後のぐちゃぐちゃに踏み荒らされた花畑の、強烈な対比。
海外のダンスカンパニーは音楽に生演奏を使うことが多いが、 Pina Bausch はむしろ録音で様々なミュージシャンの音源を使うという印象が強い。 今回、トレースノイズの入った Gershwin の “The Man I Love” のSP音源をテーマ的に多用しているのを聴いていて、 むしろ、レコードをかけながら踊るという感覚を意識しているようにも感じられた。