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Review: 『19世紀パリ時間旅行 -失われた街を求めて-』 @ 練馬区立美術館 (展覧会); 『ファッションとアート 麗しき東西交流 展』 @ 横浜美術館 (展覧会)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2017/06/04
Le Voyage dans le Temps du XIXe sièle - A la recherche des rues perdues
練馬区立美術館
2017/04/16-2017/06/04 (月休), 10:00-18:00.

鹿島 茂 『失われたパリの復元: バルザックの時代の街を歩く』 (新潮社) という大型本が出たことを、 ふとしたきっかけで知ったのですが、買っても持て余しそうと思っていたところ、 この展覧会が開催中と知って、足を運んでみました。 19世紀に発行された近世以前のパリの変遷を描いた2つの古地図の載った本 (『パリの物事的、生活的、精神的歴史』 (Jacques-Antoine Dulaure, Histoire physique, civile et morale de Paris depuis les premiers temps historiques jusqu'à nos jours, c.1830) と 『パリ、時代時代』 (Theodor Josef Hubert Hoffbauer (Illust.): Paris à travers les âges, c.1880)) と、 第二帝政 (1852-1870) 時代、Georges-Eugène Haussmann 知事によるパリ改造 (1953-1970) の最中に出版された それ以前のパリの様子をエッチングで描いた『いにしえのパリ』 (Adolphe Martial Potémont: Ancien Paris, 1962-67) という鹿島 茂 コレクションの3冊を軸に、 当時のタブロー、絵画、風刺画、ファッション、ポスターなど関連資料で、19世紀のパリの様子を浮かび上がらせる展覧会です。

Haussmann によるパリ改造は知っていたものの、19世紀にさほど詳しいわけでなく、 フランス革命以降、第一次世界大戦以前の近代として大雑把にしか理解していなかったので、 この展覧会でパリ改造のインパクトの大きさを実感できました。 フランスのロマンチック・バレエが踊られていた、バッスル以前のロマンチックなドレスが流行していたパリは改造前で、 Impressionism の画家が描いた、もしくは、Art Nouveau の華やかなポスターからイメージされる Belle Époque 期のパリとはかなり違う街だったんだなあ、 などと思いつつ、興味深く観ることができました。

The Elegant Other Cross-cultural Encounters in Fashion and Art
横浜美術館
2017/04/15-2017/06/25 (木休;5/4開), 10:00-18:00 (5/17 -20:30).

幕末期の開国をきっかけに活発化した日本と欧米の文化交流を、主にファッションやデザインの面から、 日本における洋装の受容と欧米におけるジャポニズムに焦点を当てて描いた展覧会です。 扱う時代は1950年代から1920s-30s戦間期の Art Deco まで。 『ファッション史の愉しみ−石山彰ブック・コレクションより』 (世田谷美術館, 2016) [レビュー] や 『こどもとファッション ––小さい人たちへの眼差し––』 (東京都庭園美術館, 2016) [レビュー] など、 ここ1年余り、似たようなテーマの展覧会が続いていて、東西交流という視点があるものの新鮮さには欠けましたが、 直前に観た『19世紀パリ時間旅行 -失われた街を求めて-』と被るところもあって、興味深く観ることができました。

展覧会の年表は1850年代から始まり、西洋の事項の最初は、 1857年に Charles Frederick Worth がパリを店を構えてオートクチュール (haute couture) の基礎を築く、というもの。 1853年にパリ改造が始まるので、その後のこととなります。 ちなみに、Worth が Chambre syndicale de la confection et de la couture pour dames et fillettes を設立するのが、 パリ改造が終わる、というか、普仏戦争直前の1868年。 というわけで、パリ改造とオートクチュールの制度の成立は同時代の出来事です。 都市が近代化され、ファッションのあり方が近代化されたのでしょう。 ちなみに、日本の事項の最初は1853年の黒船来航。 黒船来航から明治維新という幕末期は、パリ改造 (というか、フランス第二帝政) と同時代となることにも、気付かされました。

幕末期への目配りはありましたが、資料展示があったのは、実質的に明治維新というか文明開化期以降のもので、 欧米のジャポニズムのドレスも、クリノリンのドレスは1点のみで、バッスル以降のドレス。 装飾品等のデザインも Art Nouveau から Art Deco にかけて。 ジャポニズムが本格化したのも、パリ改造後の第三共和制下のフランス (もしくは南北戦争後のアメリカ) という時代の出来事だったのだなあ、と。

自分の興味関心という点では、やはり戦間期のものの方に惹かれると思いつつ、 『19世紀パリ時間旅行 -失われた街を求めて-』と『ファッションとアート 麗しき東西交流 展』を続けて観て、 19世紀の特に後半の欧米に関して、日本との関係を含めて、今までより具体的なイメージを持てるようになったことが収穫でした。