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Review: Metropilitan Opera, Willy Decker (prod.), Giuseppe Verdi (comp.): La Traviata 『椿姫』 @ Metropolitan Opera House (オペラ / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2017/8/6
『椿姫』
from Metropolitan Opera House, 2017-03-11, 13:00–15:35.
Composer: Giuseppe Verdi. Libretto: Francesco Maria Piave, after the play La Dame aux Camélias by Alexandre Dumas fils.
Production: Willy Decker.
Set and costume designer: Wolfgang Gussmann. Associate costume designer: Susana Mendoza. Lighting Designer: Hans Toelstede. Choreographer: Athol Farmer.
Cast: Sonya Yoncheva (Violetta Veléry), Michael Fabiano (Alfredo Germont), Thomas Hampson (Giorgio Germont).
Conductor: Nicola Luisotti.
Original production of the Salzburger Festspiele, 2005
上映: 東劇, 2017-08-05 13:30-16:21 JST.

2005年の Salzburger Festspiele で初演され、 そのミニマリスティクな演出が話題になったという Willy Decker プロダクションによる上演。 といっても、当時はオペラが自分の視野になくノーチェック。 Met Live in HD 2016-2017 の予告編映像を見て興味を引かれていたので、 アンコール上映で観てきた。

奥が低くなって奥行きが強調された半円筒状の舞台で、壁はテクスチャがあるもののほぼ真っ白。 そして、大道具は大きな針式の時計とソファ程度。 コーラスは女性も男装で Violetta 以外の衣装はほぼ黒に統一。 舞台上の色がほとんど白黒赤に抑えられていた。 そんな中、シンプルな色の転換で、登場人物の置かれた状況や内面を象徴的に描いていく。 Violetta は赤のドレスから白のスリップ、さらに第三幕の死の間際では黒のコートへ。 同じ形のソファが、最初は赤く、さらに花柄のカバーが掛けられ、それが除けられると白く、そして最後にはソファーも失われるという。 大きな時計が彼女の限られた残された時間を意識させ、 若くして死期を悟った女性が今を精一杯生きようとする物語かのよう。 ラストにこの時計が舞台からなくなるのも死を象徴しているよう。 演出意図が全て捉えられたとは思わないが、そんな演出がとても好みだった。

そんな象徴的な舞台美術使いだけでなく、立ち位置や動きで物語るような演出も面白かった。 特に、冒頭から死神を演じる黙役のように舞台の脇や背景の壁の上で存在感を示す Dr. Grenvil は、 第一幕前半の Libiamo ne' lieti calici 「乾杯の歌」の乱痴気騒ぎから、すでに不穏含み。 がらんとしたラスト近くで黒い衣装となった登場人物たちが、半円の壁にそったベンチに間を置いて座る図など、 メロドラマチックな感情描写の中にふっと異化を持ち込むようなかっこよさがあった。 Violetta もダンスを踊るというほどではないものの、舞台広く動き回り、フィジカルな演技をしながら歌っていた。 幕間のインタビューで Violetta 演じる Sonya Yoncheva が息を整えるのが大変と言っていたのも、さもありなん、と。

Violetta を演じたソプラノの Sonya Yoncheva を見るのは Àlex Ollé による現代演出での Norma [レビュー] に続いて。 Violetta に強く焦点を当てた演出だったので、彼女の華やかな歌声と容姿でよかった、と。 Norma もそうだったが、グラマラスな中にも凛々しさを感じさせるところがあって、 現代演出が映えるオペラ歌手/女優だなあ、と、つくづく。 Norma は Anna Netrebko の代役だったのだが、 この La Traviata も2005年初演時に Violetta を演じたのは Netrebko。 この初演は Deutsche Grammofon から DVD/BD 化されているので、いずれ比べて観てみたい。