Royal Opera House Cinema Season 2016/17 が始まりましたが、 その第一弾、オペラ Norma を観てきました。 Norma は1831年にミラノ・スカラ座で初演された Vincenzo Bellini による2幕のベルカントオペラで、 その主役 Norma は Maria Callas が得意とした役として知られます。 しかし、そういった点よりも、大規模や野外パフォーマンスを得意とするカタルーニャのバルセロナを拠点に活動するカンパニー La Fura dels Baus の Àlex Ollé による新演出、 という点に惹かれて足を運んでみました。
作品の舞台は紀元前の古代ローマ占領下のガリア、 その地のケルト人の宗教 (ドルイド教) の巫女の長 Norma を主人公とする物語です。 歌詞などはそのままに、舞台を現代に移し、宗教をカトリック (それもラテンアメリカにありそうな反政府の準軍事セクト) として翻案しての演出がされていました。 大量の十字架で森を作るかのような舞台美術は神聖さというより禍々しさを感じるもの。 第1幕は現代的なイメージというよりも、カトリックの儀式のイメージを強く出した演出で、 そのバックグランドに疎いところもあって、さほどピンときませんでした。 第1場は三角関係ローマの総督 Pollione、ドルイド教の巫女の長 Norma、Norma の侍女の巫女 Adalgisa の関係を説明するような展開で、 第2場に入って3人鉢合わせての修羅場の場面になっても、苦笑いしながら観ていました。
第2幕になると、現代的な子供部屋が舞台にあり、そこに母の帰りを待ちくたびれてソファで寝てしまった2人の子。 そこに、仕事が遅くなって疲れて帰ったかのようなパンツスーツ姿の Norma が登場。 子供を殺そうとする場面も、歌詞はそうではないのに、まるで子育てに苦悩するシングルマザーのイメージのようで、ガツンとやられてしまいました。 再び十字架の森に戻っての、その後のケルト人のローマに対する蜂起も、現代における圧政を行う政府に対する反政府組織の武装蜂起のようなイメージで演出。 物語としての整合性は別として強烈なイメージに引き込まれました。 子供に対する葛藤、裏切られた女性同士の友情、最後の自己犠牲と、これでもかと泣かせる展開にやられました。
2年余り前から戦前松竹メロドラマ映画をよく観ているいるわけですが [関連する鑑賞メモ]、 そういった映画でありがちなパターンが次々と出てきました。 三角関係の修羅場の場面はもちろん、 互いにライバル関係にあることを知らずに一方が恋心をもう一方に打ち明けてしまう場面や、 ライバルの2人の女性の間の友情など。 オペラは20世紀娯楽映画のルーツとは言われますが [関連する鑑賞メモ]、 戦前松竹メロドラマ映画のお約束パターンのルーツを観るようでもありました。
演出は期待したほどで凄いとは感じませんでしたが、 それもオペラ歌手のアップが多いカメラワークのせいかもしれません。 例えば、第1幕第2場の Norma が “Casta Diva” を歌う場面、舞台上、背丈大の巨大な香炉が吊るされ振られていたのですが、 ほとんど Norma がアップが移っていました。 薄明かりの中で香炉が煙をたなびかせつつ揺れる様を引いたカメラで見ながら “Casta Diva” が聴けたら、 もっと神聖な雰囲気が味わえたのではないか、と、思ったりしました。
この新演出 Norma は、元々 Anna Netrebko の Norma を想定して制作されていたものの、 Netrebko が降りて Sonya Yoncheva が Norma に配役されたという経緯があります [The Guardian の記事]。 オペラ俳優に詳しくないので他との優劣などは判断しかねますが、 Sonya Yoncheva は少し陰のある凛々しさを出していて、代役を感じさせない素晴らしさでした。 前半の宗教的な服装より、後半のパンススーツ姿が良かったなあ、と。