Светлый ручей [The Bright Stream] 『明るい小川』 [レビュー] に続いて Шостакович 作曲のソヴィエト・バレエ3作の1つが Большой балет в кино [Bolshoi Ballet in cinema] Season 2016/17 でかかったので、観てきました。 1930年初演後すぐにお蔵入りしていた作品を、 1982年に Юрий Григорович [Yuri Grigorovich] が脚本を大きく書き換えた上で再制作、 さらに2006年に再々制作しています。今回の上演は、2006年版に基づくもののようです。
物語の舞台は、1920年代の НЭП (NEP, 新経済政策) の時代のレストラン。 (舞台美術には кафе (カフェー) とあったが、ショーをやっていて、カバレット風。) 町のアジプロ劇団員 Борис (Boris) が祭でレストランの踊り子 Рита (Rita) と恋に落ちるが、 Рита は町のギャングのリーダー Яшка (Yashka) の愛人だった。 Яшка はレストランを去って Борис のもとへ行こうとする Рита を引き止めそうとするが、Яшка に恋する女ギャング Люська (Lyuska) に邪魔され、Яшка は Люська を殺めてしまう。 最後には Борис らにギャングは一掃され、ハッピーエンド。
そんな単純な勧善懲悪のハッピーエンド恋愛話で、 特にメインのキャラクタである Борис と Рита の人物像に深みが感じられなく、 物語全体としても薄っぺらく感じてしまいました。 むしろ、悪役の Яшка と Люська の方がキャラクタとしては魅力的で、 特に Люська は妖艶なモガないでたちといい複雑な心情を表現するマイム的な振付といい、良かったなあ、と。
“Таити-Тротт” [“Tahiti-Trot”] でボールルームダンスを踊る場面が予告映像で使われていたので、 ボールルームダンス・ショー的な舞台かと予想していたのですが、さほどでもなく、 バレエ、レストランでのレビューのダンス、アジプロ劇団のギムナスティックス風の (体操的な) ダンスなど、 様々な身体語彙を交えていたのは面白かったです。 レストラン「黄金時代」では内装も踊り子たちもアールデコでレビューやボールルームダンス、 一方、Борис らアジプロ劇団 (おそらく Синяя блуза 「青シャツ」を意識している) の労働者たちの世界は ロシアアヴァンギャルドな美術・服装で動きはギムナスティックス、と、多分に図式的な割り当てでしたが。 形状を大きく変えることなく色合いやちょっとしたシンボル使いで 時にアールデコ風に時にロシアアヴァンギャルド風に見せる舞台美術が、 対比させているようで共通点を示してしまっているようで、皮肉にも感じられて可笑しかったです。
物語は酷いものでしたが、よくよく考えると酷い物語はバレエやオペラにはよくあることですし、 見目麗しいダンサーが1920年代ファッションに身を包んで踊るのを見てると、ま、これはこれでいいのかな、という気分にもなりました。 ジャズやタンゴ、フォックストロットなど1920年代に流行したダンス音楽を参照した音楽に乗せて、 アールデコとアヴァンギャルドが交錯する1920年代のモダンな雰囲気を舞台化することがメインの演出意図で、 物語はそういったものを繋ぎ合わせるための器のようなものに過ぎないのかもしれないな、と。
これで、残す Шостакович の戦間期のバレエは Болт [The Bolt] (1931) のみ。 Нос [The Nose] (1928) や Леди Макбет Мценского уезда [Lady Macbeth of the Mtsensk District] (1934) のような オペラも、 イベントシネマで上映されないかなと、と期待しています。