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Review: Janet Cardiff and George Bures Miller @ 金沢21世紀美術館 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2017/01/08
Janet Cardiff and George Bures Miller
ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー
金沢21世紀美術館
2017/11/25-03/11 (月休;1/8,2/12開;12/29-1/1,1/9,2/13休), 10:00-18:00 (金土-20:00).

立体的なサラウンド・サウンドを使ったインスタレーションを得意とするカナダ出身の現代美術作家2人組の個展。 dOCUMENTA(13) での Alter Bahnhof Video Walk [鑑賞メモ] や for a thousand years [鑑賞メモ] が とても楽しめたので、彼らの作品をまとめて見ることができる絶好の機会と、金沢へ遠征してきた。 2014年にデンマークの美術館 ARoS で開催された個展 Something Strange This Way に基づく展覧会で、その際に展示された6作品に Playhouse (1999) と Imbalance. 6 (1998) を加えた8作品が展示されていた。 今まで見た作品の多くは造形的に作り込んだインスタレーションを伴わないサウンドよるAR (Augmented Reality) とでも言うものが多かったのだが、 今回の展覧会で展示されていた作品の多くはサウンドだけでなく造形的にも作り込まれたインスタレーション。 サウンドを使ったナラティヴなインスタレーションは音楽というよりラジオドラマに近いものを感じていたが、 これに造形が伴うことで、出演者のいないパフォーマンスというか舞台作品を観てるようになることもあった。

最も印象に残ったのは、やはり、ドラマ的な演出がされた作品。 椅子に座って劇場のミニチュアの舞台上のフォログラムの歌手を見つつ サラウンド・サウンドで謎の女性と歌手のリサイタルを観るような体験をするなど、 Alter Bahnhof Video Walk にも似たノスタルジックな感傷を感じた。 Opera for a Small Room (2015) は カナダのブリティッシュ・コロンビア州の田舎町のリサイクルショップで見つけたオペラのレコードのコレクションに基づき、 その持ち主の部屋とそこでかかっている音楽という形で作り上げたインスタレーション。 コレクター風の雑然とした無人の部屋でクラシカルなオペラのレコードの再生に始まり次第にノイジーなロック・オペラの様相を呈していく約20分だった。 これらの作品ほどドラマチックではないが、キャンピングカーに様々な人形が蠢く少々グロテスクさのある The Marionette Maker (2014) にも、 Playhouse にも似た舞台と歌手の人形があり、 彼らの好むモチーフとして、オペラ/声楽コンサートというとしてあるのかな、と。

以前に体験していたインスタレーションでは造形を作り込まないインスタレーションでモダンさも感じていたのだが、 この展覧会ではシュルレアリスティックな造形が多かったもは意外ですらあった。 拷問装置に着想したかのような The Killing Machine (2007) や、 回転木馬 The Carnie のような、 ドラマ的な演出が無い自動楽器のようなインスタレーションでは、そのグロテクスさが印象に残った。 しかし、ドラマ的では無い作品で最も気に入ったのは The Cabinet of Curiousness (2017)。 小さな引き出しが多く並んだ木製のキャビネットのそれぞれの引き出しにスピーカを仕込み、 引き出しを開くとそれぞれ異なる音楽や歌声が流れ出す作品で、 キャビネットのアンティークな雰囲気とノスタルジックなサウンドのシンプルな組み合わせが効果的だった。

15世紀ルネッサンス期のイタリアはメッシーナ (Messina) の画家 Antonello の絵画 San Girolamo nello studio (1475) に描かれた空間とそのサウンドスケープを再現した Conversation with Antonello (2015) は、 その音よりも、辻褄のあっていない復元された空間の方が印象に残った。 比較的初期の作品になる Imbalance. 6 (1998) は、 よろけるように飛び跳ねる素足の足元の映像を写したディスプレイを紐で吊るし、 その映像に合わせるかのようにディスプレイを揺らす作品。 全8作品の中では印象は薄かったが、サウンドをメインとしない面も観たようで、興味深かった。

体験するのに時間のかかる作品が多く、会場も混雑していたので、 通して観るのに3時間近くかかってしまったが、 短編ラジオドラマの様な作品だけでなく、造形の面白さも含め多様な8作品を堪能することができた展覧会だった。