広島国際映画祭 Cinémathèque française 共同企画 『世界のすべての記憶』 (Tout la mémoire de monde) 特集の、 アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュの特別アンコール上映で、 ピアノ生伴奏 (演奏: 柳下 美恵) 付きサイレント映画上映を観てきました。
元ジャーナリストで、第一世界大戦末期の1917年以降、1924年に亡くなるまでの間、 映画批評の雑誌を編集する一方7本のサイレント映画を演出した Louis Delluc の2本です。 フランスのサイレント期の監督として名を知られますが、作品を観たのはこれが初めて。
フランスの前衛映画の先駆とは言われ、回想シーンの使い方などモダニズムも感じられるとはいえ、 カメラワークやモンタージュも、 例えば去年末に観た Gustav Machatý: Erotikon (1929) [鑑賞メモ] と比べるとまだまだ素朴。 しかし、1920年代前半はまだまだこんなレベルでしょうか。 脚本もいささか無理があり感情移入し難たく感じられてしまいました。 L'Inondation など、勝手に横恋慕して心を病んだ主人公 Germaine に対して、 恋敵 Margot が不当に悪者に描かれているようにも思えてしまいました。
双方とも成就しない恋心や嫉妬の織りなすメロドラマ映画ですが、 L'Inondation の舞台は南仏のローヌ川沿いの村。 Le Chemin d'Ernoa の舞台は フランス領バスク地方、スペイン国境近くのピレネー北麓の村。 Le Chemin d'Ernoa は、アメリカで一稼ぎして戻った裕福な男 Etchegor) が主人公で、 三角関係の相手も密かに犯罪で稼いでいるアメリカ人夫婦 (Majesty et Parnell) で、 自動車に乗るなど、それなりにモダンなライフスタイルを感じさせるものがありました。 L'Inondation でも、主人公 Germaine の恋敵となる Margot はフラッパーを思わせるキャラクター。 どちらもパリのような大都会を舞台とした映画では無いということもあって、 メロドラマらしい都会のモダンでお洒落な道具立でが少なめなのも、物足りなく感じた一因でしょうか。
と、否定的な書き方になってしまいましたが、期待が大き過ぎただけで、ピアノ生伴奏に導かれつつ、普通に楽しんで観ていました。 モダンなメロドラマというより、Le Chemin d'Ernoa でのピレネー北麓の見通しの良い風景やその中を疾走する自動車、 L'Inondation での静かに洪水に浸るローヌ川沿いの村など、 美しい野外ロケの画面が印象に残りました。