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Review: 豊田 四郎 (dir.) 『若い人』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2018/07/29

神保町シアターの特集 『映画で愉しむ――石坂洋次郎の世界』から、 この映画を観てきました。

『若い人』
1937 / 東京発声 / 白黒 / 81min.
監督: 豊田 四郎. 原作: 石坂 洋次郎 『若い人』
市川 春代 (江波 恵子), 小日向 傳 (間崎 慎太郎), 夏川 静江 (橋本 スミ), 英 百合子 (江波 ハツ), 山口 勇 (江口 健吉), etc

あらすじ: 函館の女学校で生徒に人気の教師の間崎は、酌婦の私生児で問題行動が多い生徒の江波を親身に指導する。 江波は間崎に好意を寄せ、間崎の注意を引くべく問題行動を繰り返す。 間崎に好意を寄せている女教師の橋本は、江波への指導について間崎を諌める。 間崎は東京への修学旅行の引率するが、往路の間、江波と一緒にいることの多い真崎を見て、他の生徒たちは二人の仲を疑うようになる。 東京では、橋本の義母が間崎を面会に訪ね、橋本を将来の妻にと言われる。 面会の様子を盗み聞きしていた江崎は、帰路では真崎の注意を引く行動をしなくなり、修学旅行後は学校を休みがちになる。 やがて、江波が休みがちになっているのは真崎の子を妊娠したからではないかという噂がたち、その噂を知った橋本は真崎を遠ざける。 そんな中、女生徒の寮で盗難騒ぎがあり、捜索中に橋本は江波の診断書を目すする。 それで間崎の潔白を知り、橋本は間崎との仲を戻す。 ある晩、母と喧嘩をした江波は、間崎の下宿に転がり込んでくる。 間崎は江波を泊めるわけにはいかないと、橋本に彼女を託す。 橋本は嫌がる江波を連れて行こうとするが、やがて江波が間崎に好意を寄せていることに気付く。 橋本は江波を待たせて、間崎の元へ戻り、彼に江波と結婚するように言う。 間崎はそんな橋本を自分に正直になれと諭すのだった。

石坂 洋次郎 原作の戦前映画といえば、清水 宏 監督の『暁の合唱』 (松竹大船, 1941) が素晴らしかったので [鑑賞メモ]、 他の作品はどうなのだろうという興味で観てきました。 学園物というほど女生徒間のやりとりが描かれず、かなりメロドラマ的でした。 原作とは異なり、間崎は江波をあくまで生徒として接しようとするよう描いていましたが、 それでも女学校を舞台とした男性教師と女生徒、女性教師の三角関係という設定は現代ではありでしょうか。 その設定はさておき、三角関係メロドラマとして見た場合、 女性を挟んでの三角関係が無いという設定のせいか、松竹映画のような繊細な女性描写を得意としないせいか、 女性の登場人物の心理描写が薄く、あくまで間崎が主人公の映画でした。 原作とは異なる展開の、江波を外に待たせたままという所での終わり方も、 観ていて半端に感じられましたが、これは続編を作るつもりだったのでしょうか。

『暁の合唱』もありますが、清水 宏 は女学校を舞台とした学園物『信子』 (松竹大船, 1940) も撮っています。 そんなこともあって、清水 宏 だったらどう撮ったかな、と思いつつ観てしまいました。 女性の描写の巧さだけでなく、もっと野外ロケをうまく使ったのではないかと。 映画は函館を舞台としていたのですが、 函館山の麓の洋館が並ぶ街並みや、連絡船の着く港の様子など、 函館の街の様子がよくわかるショットがほとんど無かった (そもそも函館でロケをしたかも怪しい) のは、残念でした。