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Review: Тенгиз Абуладзе [თენგიზ აბულაძე / Tengiz Abuladze]: Мольба [ვედრება / The Plea] 『祈り』 (映画); Тенгиз Абуладзе [თენგიზ აბულაძე / Tengiz Abuladze]: Древо желания [ნატვრის ხე / The Wishing Tree] 『希望の樹』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2018/08/12

ソ連時代の1950年代から1980年代にかけて活動したジョージア [グルジア] の映画監督 Тенгиз Абуладзе [თენგიზ აბულაძე / Tengiz Abuladze]。 彼の「祈り」三部作の上映が行われています。 10年前に観た三部作の最後の作品 Покаяние [მონანიება / Repentance] 『懺悔』 [鑑賞メモ] の印象も良かったので、残りの2本を観てきました。

Мольба [ვედრება / The Plea]
『祈り』
1967 / Грузия-фильм (СССР) / 77 min. / B+W
Режиссёр: Тенгиз Абуладзе [თენგიზ აბულაძე / Tengiz Abuladze]。

19世紀ジョージア [グルジア] の詩人 Важа Пшавела [ვაჟა-ფშაველა / Vazha Pshavela] の叙事詩に基づくという映画。 都市での様子からして舞台は19世紀かと思われますが、旧式な銃程度で近代的な文化はほとんど入ってきていないコーカサスの山中が舞台。 主人公キリスト教徒の戦士 Алуда は敵対するイスラム教徒の戦士を討ち取るのですが、敵戦士への敬意を払ったことを咎められ、属する部族から追放されてしまいます。 放浪ののち、討ち取った戦士の身内に客人として迎えられるものの、その部族の人々に気付かれ、捕らえられ、討ち取った戦士の墓の上で処刑されてしまいます。 映画は、象徴性の高い画面構成の白黒サイレント映画にナレーションや音楽を付けたような作り。 セリフは一部の例外を除いてそのまま使われず、口の動かない映像にアフレコで言葉を付けているので、発話なのか内面描写なのか判然としません。 コーカサス山中の草木の少ない自然の風景や石造りの建物を捉えた白黒の映像は、見慣れないこともあって、まるで異星のよう。 レズギンカ (民族舞踊音楽) やポリフォニーなど、コーカサスらしい音楽が多く使われていました。 冒頭の場面で Алуда のもとへ客人として訪れてきた女神のような女性が、 Алуда 処刑の後、Алуда の部族に処刑 (乞食と結婚させられた上で絞首刑) されるのですが、 象徴的とはいえ、若干蛇足のようにも感じられてしまいました。 淡々と余白の多いミニマリスティックな作りで、宗教対立の不条理を物語ってくるというよりも、 音楽的、詩的とも感じる映像が印象に残る映画でした。

Древо желания [ნატვრის ხე / The Wishing Tree]
『希望の樹』
1976 / Грузия-фильм (СССР) / 107 min. / colour
Режиссёр: Тенгиз Абуладзе [თენგიზ აბულაძე / Tengiz Abuladze]。

ソ連時代のグルジアで活動した小説家 Георгий Леонидзе [გიორგი ლეონიძე / Georgii Leonidze] の短編集に基づくという映画。 舞台は、ロシア革命直前の20世紀初頭のグルジアの農村。 母を失い父と祖母の家に移り住んできた美しい娘 Марита [Marita] は従兄弟の Гедиа [Gedia] と相愛の仲となるが、 村長の意向もあり裕福な農家の息子 Шэтэ [Shete] と結婚させられる。 Шэтэ が家を空けた間に Марита に会いに Гедиа が訪れるが、それを知られた Марита は村中を引き回しの上、処刑されてしまう、という物語です。 同じコーカサスの山中を舞台にしても、色付きで見ると、かなり現実的。 セリフが入って、個々の登場人物の描き込みが深くなり、ぐっと物語性が強くなったよう。 叙情的とも感じられる美しい映像表現も残していましたが、人物描写に基づくユーモア、皮肉がぐっと表に出てきていました。 美しい Марита や素朴な好青年 Гедиа よりも、 ボロボロながら19世紀後半の都会の女性のような服装をした白塗り化粧の年齢不詳の女性 Фуфала [Pupala] や、 村中の男に色目を使う女、不誠実そうな聖職者、子供相手に革命を語る革命家、「希望の木」を求め歩いて凍死してしまう男など、 個性的な脇役の方が味わい深いです。 革命前をノスタルジックにではなく因習や迷信に囚われた社会として描く (特に聖職者を否定的に描く) あたりは、ソ連映画らしいとも感じました。

後になるほど描写の象徴性が薄れてナラティヴになり、ユーモアを強めて行くように思いますが、 19世紀の宗教対立を背景とした Мольба、 ロシア革命前の因習や迷信に囚われた農村を背景としたДрево желания、 そして、革命後のスターリンの大粛清を背景とした Покаяние と、 不条理な社会によって善良な個が殺されるという救いの無い悲劇を描いた映画という点で、 なるほど共有するテーマも感じられる映画でした。