ニューヨークを拠点とする1975年に結成されたカンパニーによる二度目の日本公演。 いわゆる戯曲作品ではなく、過去の歴史的な出来事の記録に題材を取って上演するとこで知られていて、 2015年の初来日公演の演目 Early Shaker Spirituals (2014) は、1976年にLPとしてリリースされたシェーカー教徒の聖歌を再現する作品でした。 といっても、残念ながらこの来日公演は見ることができず、今回観るのが初めて。 今回観たのは1971年にニューヨークの Town Hall での開催された討論会「女性解放に関する対話」を収録したドキュメンタリー映画 Town Bloody Hall に取材した作品。 カンパニーの作風や元になった討論会に関する予備知識があまりなく、台詞主導の辛気臭い作品かもしれない、と嫌な予感もしていました。
実際の所は、小説家 Norman Mailer がホストを務めるということで、客観的なデータに基づくものというより、主観的で文学的なレトリックを駆使したもの。 ホストの Mailer や場を乱そうとした Jill Johnston といい、胡散臭さすら感じる個性的なキャラクターで、なるほどこれは舞台作品にできるな、と、納得。 The Wooster Group による舞台作品化は、TV番組でよく使われる再現ドラマのようなリアリズムに基づくものではなく、 元のドキュメンタリー映画を音を消して上映しつつそれに合わせて演じたり、Normal Mailer 役として2人の俳優を使ったり。 一人の登場人物を複数の俳優で演じるというのはマイム等でよく見られることですが、 一人の俳優がその登場人物になりきって統一的な内面のある人物として演じるのとは異なり、討論会の状況を構成する一要素を作り出すような演出に感じられて、興味深かったです。 さらに、Norman Mailer 監督・主演の映画 Maidstone (1970) を織り交ぜたり、 実際は打ち切られてしまった Jill Johnston の講演の後半を、著書 Lesbian Nation に書かれた全文から復元して、最後に付けたり、と、 状況の再構成にとどまらないところもありました。
一時期、FESTIVAL/TOKYOでドキュメンタリー演劇を観る機会が多くあったわけですが、 そんな中では、レバノン内戦の戦士や政治リーダーたちに関する実際にあった出来事を再構成した Rabih Mroué: How Nancy Wished That Everything Was An April Fool's Joke [鑑賞メモ] のことを少し思い出しました。 形式的な作風が似ていたわけではないのですが、映像/ドキュメンタリー映画だけ観ていたら途中で飽きていたかもしれないと思うだけに、 リアルに演じているのではなくても人が語ることによって耳を傾けさせる力を感じさせるという点に共通するものを見たような気がしました。
ところで、余談ですが、ニューヨークの Town Hall というと、このハコで録音されたライブ盤 Anthony Braxton: Town Hall (Trio & Quintet) 1972 (Trio, 1972; hatART, 1992) が最初に思い浮かびます。 他にも、1960年代のESPレーベルのリリースにも、Ornette Coleman や Albert Ayler、Sun Ra など、 Town Hall でのライブ音源がよく使われていました。 そんなこともあって、音楽ライブ向けの音響を考慮した作りの会場なのかと想像していたのですが、 舞台中に上映されていたドキュメンタリー映画から垣間見られる様子はそうではありませんでした。 あんな所でやったライブだったのか、と、会場の様子を知ることができたのも、収穫でした。