戦前1910年代から三越のポスターや広報誌のデザインや、東京地下鉄道のポスターなどを手がけていたことで知られる グラフィックデザイナー 杉浦 非水 に関するコレクションに基づく展示です。 三越のポスターなど、戦前、戦間期の日本のモダン文化に関する展覧会 [関連する鑑賞メモ] で目にする機会がありましたが、 これだけまとめて観るのは初めて。 初期の Art Nouveau 風の作風からモダンな Art Deco な作風へ、流行の移り変わりも感じられます。 ピンクの洋装の女の子を連れたシックな黒の和装の女性を大きくあしらった 『東京三越呉服店 本店西館修築落成 新宿分店新築落成』 (1925) のポスターなど、可愛らしくてとても魅力的です。 その一方で、『科学』 (1924-25) や『科学知識』 (1931-35) のような雑誌も手がけていて、 科学技術イラストレーションのような仕事もあったことに気づかされました。
1997年に 杉浦 非水 の遺族から作品や資料を一括寄贈されていたとのことで、 デザイナーとしての仕事ではない写生帖や、スクラップブックなどの資料も展示されていました。 動植物の写生は図案化していない写実的なもので、さすがの観察眼。 今回初公開というプライベート撮影の16mmフィルムもあり、デジタル化されたものが液晶ディスプレイで上映されていました。 当時のモダンな雰囲気を垣間見るというより、Instagram の stories のように私的なノリの動画を当時も撮っていたのだなと、感慨深いものがありました。 特に目を引いたのは、猫を撮影したもので、上映されていた中でも最長の約7分もありました。 現在のデジタルのカメラではない取り回しの難しいフィルムのカメラにも関わらず、かなり上手く撮っていて、猫好きだったのか、と。 1920s白黒無声猫動画として、伴奏付きでの上映を観てみたいようにも思いました。
この展覧会は前期後期に分かれていて、作品保護の為に、会期中に大幅な展示替を行うとのことです。 今回、前期を観たので、後期にも足を運びたいものです。
メインの企画展は戦間期に前衛美術運動を率い、戦後にかけて活動した 福沢 一郎 の回顧展です。 シュルレアリズムの日本への紹介者の一人で、作風もその影響が大きいものです。 自分がシュルレアリズムが苦手ということもあるかと思いますが、いまいち楽しめませんでした。 1941年には共産主義者の嫌疑で拘禁されるという経験もしているわけですが、 不条理の現実世界をその内部からいわゆるマジックリアリズムのように描くというのとは異なります。 例えば、戦後の混乱を風刺したという『敗戦群像』 (1948) にしても、 石油ショックによるトイレット・ペーパー騒動を風刺した『トイレット・ペーパー騒動』 (1974) にしても、当事者視線でその不条理を描くというより、むしろ少々上から目線で愚かな事をしていると描いているよう。 そこに、むしろ少々抵抗感を覚えました。 作家本人の資質がどうだったかは分かりませんが、 Dante: La Divina Commedia に着想した地獄図をベースとしたことによる形式的な問題もあるように思いました。