Tanztheatre 創始者と言われるドイツ出身の Kurt Jooss が戦間期、ナチスが政権を取る直前に創作した The Green Table をレパートリーに持つ国内唯一のバレエ団が、 14年ぶりにこの作品を再演するとのことで、 お勉強として観ておこうという程度の気分でこの公演を観に行ったのですが、 意外と2作とも楽しめました。
第1部は Balanchine の Western Symphony は、 “Red River Valley” など Contry & Western でよく知られる伝承曲を オーケストラ組曲化した音楽を使った作品です。 19世紀のウェスタン・サルーン (いわゆる西部劇に出てくるような酒場) が舞台で、 カンカン嬢 (サルーンの踊り娘) とカウボーイの衣装ですが、物語バレエというより、 ウェスタンの旋律に着想した4楽章構成の交響曲を踊りで表現した抽象バレエでした。 もちろん、バレエ的な動きだけでなく、カンカン嬢やカウボーイらしい動きに着想したり、 馬車を意識したような群舞のフォーメーションを取ったり。 自分にとってはウェスタンとバレエの組み合わせは意外だったので、その妙が楽しめました。 少し前に マーク・フォーサイズ, 篠儀 直子 (訳) 『酔っぱらいの歴史』 (青土社, 2019) で ウェスタン・サルーンについて読んでいた、というのもタイミングが良かったのかもしれません。
休憩を挟んで後半は、Kurt Jooss の The Green Table。 Rudolf von Laban の下で学んだ表現主義 (Expressionism) の文脈で語られることの多いダンサー/振付家で、 死 (Death) を死神のキャラクターにして舞台に載せるなどそれらしく思いますが、 兵士の動きなどはむしろ体操的な動きが目に止まったように感じました。 物語バレエというほど全体としてストーリーがあるわけではなく、 和平交渉の茶番と悲惨な戦場をテーマとした1場面5分余りの風刺的なスケッチを束ねた作品でした。 タイトルともなっている和平交渉の「緑のテーブル」の場面をオープニングとエンディングに、 間で “The Fairwells”「壮行」、“The Battle”「戦闘」、“The Partisan”「パルチザン」、“The Refusees”「難民」、“The Brothel”「娼窟」、“The Aftermath”「戦後」 の6つの場面が描かれます。 兵士の装備や女性の服装が第一次世界大戦を思わせるもので、 短いスケッチを集めた形式と風刺的にデフォルメされた動作もあって、 Otto Dix の Krieg (1924) や Käthe Kollwitz の Brot (1928) とかの ワイマール時代の風刺画 [鑑賞メモ] をダンスで見るかのよう。 ピアノ2台による生演奏の伴奏も、タンゴやジャズなどの戦間期当時の流行も感じられ、サイレント映画のピアノ伴奏を聴いているよう。 そんな戦間期の雰囲気がよく再現されているように感じられて、自分の好みということもあって、とても楽しめました。