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Review: Metropilitan Opera, John Dexter (prod.), Francis Poulenc (comp.): Dialogues des Carmélites 『カルメル会修道女の対話』 @ Metropolitan Opera House (オペラ / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2019/06/16
『カルメル会修道女の対話』
from Metropolitan Opera House, 2019-05-11, 12:00–15:10.
Composed by Francis Poulenc, libretto by the composer, based on the play by Georges Bernanos.
Production: John Dexter.
Set Designer: David Reppa. Costume Designer: Jane Greenwood. Lighting Designer: Gil Wechsler. Revival Stage Director: David Kneuss.
Cast: Isabel Leonard (Blanche de la Force), Erin Morley (Sœur Constance), Karita Mattila (Madame de Croissy), Karen Cargill (Mère Marie), Adrianne Pieczonka (Madame Lidoine), David Portillo (Le chevalier de la Force), Jean-François Lapointe (Le marquis de la Force), Tony Stevenson (Le Père confesseur du couvent), et al.
Conductor: Yannick Nézet-Séguin.
World Premiere: Teatro alla Scala, Milan, 1957. This production's premiere: Metropolitan Opera House, 1977.
上映: 109シネマズ川崎, 2019-06-09 11:20-14:40 JST.

現代オペラ (第一次世界大戦以降に作られたオペラ) や現代演出のオペラがメインとはいえ、5年前からオペラを時々ながら観ているわけですが、 それに合わせてオペラ作品に関する本などを読むようになって気になっていたのが、この Francis Poulenc の Dialogues des Carmélites。 Les Six (フランス六人組) の1人として知られる Poulenc による、フランス革命末期の恐怖政治の時代に殉教したコンピエーヌの16名のカルメル会修道女の実話に基づくオペラです。 修道女たちが “Salve regina” を合唱しながら断頭台の露と消えていく壮絶なエンディングに触れられた紹介に興味を引かれる一方、 Avant-Garde と絡んていた戦間期ではなく、カトリック信仰に基づく作曲をするようになった晩年の作品で、それも殉教劇という宗教色が強いとされる所に少々敷居の高さも感じていました。 上演機会が少なく、されても事前に話題になることも少なく、なかなか観る機会が無かったのですが、 Met Live in HD 2018-2019 シーズンの最後の作品として上映されたので、観ておく絶好の機会と足を運びました。

主人公は、貴族の娘で少々神経質そうなで怖がりな女性 Blanche。 Blanche はフランス革命の社会不安から逃れるようにカルメル会修道院に入ります。 Blanche を受け入れた修道院長 Madame de Croissy は病に侵されれおり、 やがて、その苦痛に取り乱した状態で死にます。 その後、教会資産が国有化されることになり修道女たちは修道院から追い出されることになります。 修道女たちの間では追い出されることなく殉教しようという意見も出ますが、恐怖に Blanche は逃げ出します。 修道女たちは殉教せずに修道院を出ますが、結局は革命政府に捕らえられ、反革命で処刑されることになります。 断頭台での処刑が進み最後の一人、親友の Constance の番となったところで、逃れていた Blanche が断頭台の下に現れ、Constance に続いて最後の一人として処刑されます。 そんな Blanche や親友となる最年少の Constance、 Blanche が入った時の修道院長 Madame de Croissy、次期修道院長と目されていた厳格な Mère Marie、 Marie と比べ大らかな Madame de Croissy の後の修道院長 Madame Lidoine ら、 修道女たちの信仰や殉教に関する対話からなるオペラです。

John Dexter の1977年の演出は、1970年代末以降 Patrice Chéreau らによる現代オペラ演出が流行る以前だけあって、 比較的オーソドックスと感じられました。 三幕構成を前半後半の二幕構成に変えてはいましたが、違う時代の話に翻案したりすることなく、 演出家の解釈を押し出すというより、原作に忠実。 ゴージャスな舞台装置が多いオペラの中では、舞台装置の数も最低限で、 白い十字架となっている床に13名の修道女が五体投地のように伏せて祈っているオープニング、 修道院内と俗世の境界を象徴的に示す十字架を組み合わせた網状のオブジェなど、 ここぞという場面で視覚的にも印象的な象徴的な演出も見られましたが、 衣装・美術だけでなく演技もリアリズム的なもの (特に、前半最後の Madame de Croissy の死の場面)。 音楽を聴き込んだりリブレットを読み込んだりまではしませんでしたが、 それなりに予習して臨んだこともあり、前半は比較的冷静に観ていられました。 しかし、リアリズム的にそれぞれ修道女の個性を丁寧に描いていたこともあってか、 後半に入り恐怖政治下で修道院をめぐる状況がどんどん切迫していくにつれて、話にグイグイと引き込まれました。 最後の場面も、記号的な殉教/処刑ではなく、それぞれに個性的で顔の見える修道女たちの死として描かれたからこそ、 強く心打たれました。

このオペラが初演された1957年は Total serialism 全盛期とも言える時代ですが、音楽は調性的。 ラストの “Salve regina” [YuouTube] をはじめ、 重要な場面で合唱される聖歌 (旋律は Poulenc のオリジナル) も美しく印象に残るオペラですが、 それ以外でも、時にドラマチックに美しい旋律が耳に残ります。 流石にアリアとレチタティーヴォを使い分けるようなものではなく、対話を自然に音楽にのせるよう。 特に、後半の第2幕第3場、危険迫る修道院から救い出そうと来た兄 (Le chevalier de la Force) と Blanche の対話のデュエット “Oh! Ne me quittez pas” [YouTube] は、 凛として切なく美しく最も心に残るものでした。

この “Oh! Ne me quittez pas” は、歌詞の内容にも心打たれます。 「いつも憐れんでくれるけど、友達なら普通に払う敬意も私には払ってくれない。私は、もう可愛いうさぎじゃない。カルメルの娘よ。共に戦っている仲間と思って欲しい。」と。 修道女たちは教義に完璧な聖人としてではなく、運命に翻弄されながら、 時に凛として、時に怯え躊躇し (特に Blanche)、時に弱さを見せ (修道院長ですら取り乱して死ぬ)、時に生きる喜びを見出し (特に Constance)、 意見を違えることがあれど、誰かを否定的に描くことなく、互いに敬意を払いあうかのように対話を通して描いていきます。 そんな対話を通して、修道女たちの宗教者であること以上の個性が浮かび上がり、 本来の宗教的な意味を越えて、不条理の下で尊厳を持って生きる/死ぬことはどういうことなのか、問うてくるかのよう。 このような対話に、このオペラの宗教性を越えた普遍性を感じました。

主人公 Blanche を演じたのは、Marnie でもタイトル役を演じていた Isabel Leonard。 Marnie にしても、この Blanche にしても、表情も細やかに演技できるイベントシネマ向けの演技派だと、つくづく。 Blanche に次いで印象に残った役は、Blanche の親友にして対照的な性格の Constance。 明るいというか少々天然っぽいのですが、息詰まるようなこの作品の中で彼女が出てくるとホッとする、まさにコミックリリーフでした。 (それだけに、最後の最後の場面、断頭台の前で2人が手を取る場面の切なさが増幅されるのですが。) Constance 役の Erin Morley と Blanche 役の Isabel Leonard の2人の噛み合わなさも含めた絶妙なやり取りを見ていて、 このような組み合わせは少女漫画のよう、というか。妙に既視感を覚えたのですが、何の作品だったのか、と。

この Met Live in HD を観たあと、 2013年に Théâtre des Champs-Elysées で Olivier Py [関連する鑑賞メモ] の演出によるプロダクションが上演されたことを知りました。 John Dexter のリアリズム的な演出で登場人物の個性を丁寧に表現していたのが良かったのであって、 抽象的で象徴的な現代演出ではこのオペラは図式的になってしまうかもしれないと思っていましたが、 Olivier Py のプロダクションを予告編 [2013年, 2018年その1, 2018年その2] で断片的に観た限り、かなり良さそう。 DVD/BD になっているので、いずれ入手して観たいものです。