1890年代から1930年代にかけて木版画やエッチングなどの版画やグラフィック・デザインの文脈で活動した オランダのセファルディ・ユダヤ人のグラフィック・アーティスト Mesquita の回顧展です。 ほとんど知らないアーティストでしたが、 Art Nouveau から Art Deco にかけての時代という活動時期に興味を引かれて、足を運んでみました。 しかし、Art Nouveau や Art Deco からの影響はさほど感じられず、 むしろ、モダンながらグロテスクで影のある雰囲気は表現主義、ドローイングなどはシュールレアリズムとの共通点を強く感じる作風でした。 枠線をあまり用いず太さを変えた粗いストライプで陰影を表現して描いたポートレートなど、なかなか良かったです。
ただ、Mesquita 個人に焦点を絞りすぎていて、当時の彼の表現が置かれていた文脈がよく掴めなくて、観ていて不完全燃焼気味でした。 M. C. Escher の師で、Auschwitz に送られて1944年に亡くなったものの作品は Escher によって救われたというエピソードは、フライヤ等でもかなり強調されていましたが、 例えば、Mesquita がグラフィック・デザインを度々手がけた建築・芸術雑誌 Wendingen の 当時のモダニズム運動の中でのポジション (例えば、同じオランダの De Stijl との関係は?) とか、展示を観てもわかりませんでした。 同時代の木版画といえば、目黒区美術館の 『京都国立近代美術館所蔵 世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて』 展でそれなりにまとめて観る機会があったばかりなのですが、 そんな同時代の木版画表現とその中での Mesquita のポジションがわかると、もっと楽しめたかもしれないと思いつつ観た展覧会でした。
アーティスト本人とはあまり関係無い話ですが、 展示解説によるとポルトガル系のセファルディ・ユダヤ人の家系とのことで、 おそらく、レコンキスタ完了直後のユダヤ人追放令 (スペイン1491年、ポルトガル1496年) の際にオランダに移住した家系と思われますが、 ユダヤ人がイスラームのモスクを意味する Mesquita を姓に持つようになった経緯が気になってしまいました。