ソ連崩壊後のロシアで活動する作家による現代アートを紹介する展覧会が、房総半島中部の市原湖畔美術館で始まりました。 ロシアの現代アートは国際企画展で断片的に観る機会はあれど、まとめて観る機会はなかなか無いので、足を運んでみました。 2013年にリニューアル・オープンした市原湖畔美術館 (元・市原市水と彫刻の丘) も リニューアル後は現代アートの展覧会に力を入れている様子だったので、美術館に足を運んでみる良い機会でもありました。
ロシアの現代美術というと、今まで日本に紹介されてきた文脈もあってか、 Война [Voina] や Pussy Riot などアクティヴィズムに近いパフォーマンス・アートという印象も強いのですが [関連する談話室発言]、 この展覧会はそのような色は薄め。 宇宙をテーマにしていたせいか、インスタレーションとドローイングからなる夢想的、幻想的、瞑想的とも感じられる展覧会でした。 出展作家は6名。都内の美術館の大規模な展覧会に慣れ過ぎてしまったか、こぢんまりした展覧会でしたが、 個々の作品にゆっくり向き合うには丁度いい規模でしょうか。
最も印象に残ったのは、この展覧会における背骨とも言える Леонид Тишков [Leonid Tishkov] によるロシア宇宙主義 (Русский космизм) オマージュの一連の作品でした。 宇宙主義は20世紀初頭のロシアの文化運動で、革命後のアヴァンギャルドへも影響を与えたと言います。 Велимир Хлебников [Velimir Khlebnikov] の詩 «Ладомир» [“Ladomir”] (1919) からタイトルを取った作品は、 パスタやパンで未来都市をとったもので、パスタによるコンストラクションを思わせながらも、 パスタの繊細さが粗いタッチによる線描をそのまま空間に作り出したようでもありました。
2017年に開催された «Антарктическая биеннале» [“Antarctic Biennale”] 『南極ビエンナーレ』の企画者 Александр Пономарев [Alexander Ponomarev] による «Нарцисс» [“Narcissus”] は、 床一面位水を張った照明を落とした地下ギャラリーに、極地航海時に舳先から撮った海水面のビデオを大きな4面の液晶ディスプレイで上映した作品です。 スタイリッシュで瞑想的な雰囲気で、外の炎天が嘘のようにひんやりとした別世界へ連れて行かれたよ う。 少々力技なインスタレーションという点では、いかにも21世紀のグローバルな現代アートとも感じました。 通しては観ませんでしたが、Алена Иванова-Йохансон [Alena Ivanova-Johanson] による «Антарктическая биеннале» のドキュメンタリー的な映像作品 “Master of the Elements” [teaser] も ギャラリーで観ることができました。 その映像を観ていると、南極の風景の非日常さとそれを捕らえた映像美はあれど、作品がそれに負けていたるようにも感じてしまいました。