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Review: The Royal Ballet, Arthur Pita (choreo./dir.): The Metamorphosis @ Linbury Studio Theatre, Royal Opera House (ダンスシアター / streaming)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/04/19

イギリス・ロンドン Royal Opera House が COVID-19 対策で自己隔離している人々のため 週替わりでストリーミングで、 以前に trailer で興味を引かれていたこの作品がかかったので、早速観ました。

Linbury Studio Theatre, Royal Opera House
March 2013.
A dance-theatre adaptation after Franz Kafka.
Choreographer / Director: Arthur Pita.
Music composed and performed by Frank Moon.
Designs: Simon Daw; Lighting design: Guy Hoare;
Cast: Edward Watson (Gregor Samsa), Laura Day (Grete Samsa), Nina Goldman (Mrs. Samsa), Neil Reynolds (Mr. Samsa), Bettina Carpi (Maid / Coffee Lady / Dream Figure / Bearded Man), Amir Giles (Train Concuctor / Dream Figure / Bearded Man), Greig Cooke (Clark / Dream Figure / Bearded Man).
First performance: Linbury Studio Theatre, Royal Opera House, 19 September 2011.
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=6H6KzBu4K68

2011年に初演された Franz Kafka の短編 Die Verwandlung 『変身』に基づくダンスシアター作品です。 収録は2013年のリバイバル上演の際のもので Opus Arte からDVD化されています。 演出しているのは少々グロテスクでシュルレアリスティックな演出を得意とする ポルトガル出身でイギリスを拠点に活動する振付/演出家 Arthur Pita です。

さすが、演劇的な物語バレエを得意とする The Royal Ballet と言いたくなるほど、極めて演劇的な演出です。 様々なダンスの場面をつなぐ要素として物語の枠組みを使うのではなく、ほとんど無言劇といってよいもの。 Royal Opera House cinema ではなく National Theatre Live を観ているようでした。

Gregor Samsa の部屋と居間の間の壁は設けず、 ライティングと溝、そして壁や扉があるかのように演じて見せていました。 物語はかなり変えられていて、いきなり毒虫に変身した Gregor が登場するわけではなく、 最初の20分は Gregor が繰り返し仕事に行く場面が描かれます。 原作では旅回りのセールスマンですが、荷物も少なく、むしろ、日々通勤するサラリーマンのよう。 ブラックな上司に鬱になって引き篭もりになった息子の物語のようにも感じられました。 ラストの Gregor の死も明示的には描かず、 リンゴを投げつけられる場面はあっても、それで致命傷になったという程ではなく、 死んだというより、女中に窓の外に逃された、という感じの描き方でした。 しかし、最後の場面、家族三人は喪服だったので、Gregor の死をそのように象徴的に描いただけとも。

毒虫 Gregor を演じる Edward Watson の、被り物などを使わず、 筋肉質ながら柔軟なダンサーならではの身体を駆使した人と思えない動きは、確かにこの作品の見どころです。 次第に粘液でドロドロになっていく Gregor の身体と部屋も印象を強く残します。 しかし、厳格そうな父、喘息持ちで神経質そうな母、素直で性格良さそうな妹、肝の座った女中など、 まるで俳優のようにそのキャラクターを演じているのも素晴らしいです。 特に、 妹 Grete 役 Laura Day の演技がチャーミングで良かったです。 原作では彼女の習い事は音楽 (ヴァイオリン) でしたが、この作品ではバレエという設定で、 そのバレエの技が少しずつ上達していくという形で、原作のエンディングの「いつの間にか美しく成長していた」ということを、上手く表現していました。

原作では最初の女中は逃げ出して、妹 Grete が面倒を見て、最後、手伝い婆さんが死骸を処理します。 この作品でも Grete よき理解者ではありますが、 女中も逃げ出さず、毒虫に怯まず家事を続けていくところが、ちょっと面白く感じました。 後半で登場する下宿する三人の髭面の紳士は原作では特にユダヤ的なものを意識させられませんでしたが、 超正統派ユダヤ人の格好で、なるほどそうか描くか、と。 彼らとクレツマーで踊る場面もあり、20世紀初頭東欧ユダヤ人の不条理の話としても描いていたようにも感じました。

ポルトガル出身の Arthur Pita は “The Davie Lynch of Dance” とも言われるわけですが、 この The Metamorphosis を観て、それも納得。 2017年にも The Royal Ballet で Natalia Osipova ヒロイン役に使って Victor Sjöström 監督 Lilian Gish 主演のサイレント映画で知られる The Wind [鑑賞メモ] を ダンス作品化しています [trailer]。 去年は、Natalia Osipova と Jonathan Goddard の2人舞台で、 Hans Christian Andersen の童話に基づく作品 The Mother も上演しています [trailer]。 これらの作品も、是非、通してみたいものです。