去年の小劇場 THE PIT での新作ダンス公演『NINJA』も楽しかった [鑑賞メモ] 森山 開次 が ついにオペラパレスでの新作バレエに挑戦するということで、公演初日に、早速観てきました。
御伽草子「浦島太郎」をモチーフとした作品ですが、 物語の主題を掘り下げるというより、その枠組みを構成に活用するよう。 浦島太郎の助けた亀自体を「亀の姫」として設定し直し、 他の童話/寓話 (羽衣伝説、「鶴の恩返し」、ギリシャ起源で近世に日本の昔話となった伊曾保物語「兎と亀」、中国道教由来の七夕伝説、など) や 能の曲目 (「龍田」、「翁」、「鶴亀」) から着想した場面も折り込み、2幕約2時間の作品として仕上げていました。 この作品では基本的にバレーの身体表現を使い、全体的な構成としても比較的オーソドックスと感じられるバレエ作品でした。 親子で楽しめる作品という位置付けで、大人からすると少々説明的に感じる所もあったかと思いますが、十分に楽しめる作品でした。
新体操やサーカスの身体表現も取り込みキッチュでユーモラスな所も親しみやすいダンス作品という印象もあった 森山 開次 ですが、 その面が抑えられてしまっていた感があったのは、少々物足りなく感じました。 しかし、少人数でのダンス作品では見られなかった群舞などもあり、それまでに無いゴージャスな表現が楽しめました。 『NINJA』では物語というより、映像や照明、衣装、音楽の作りだす世界観で様々な場面を緩くまとめていた感があったのですが、 バレエの構成の枠組を援用することでまとまりが良くなったように感じました。 特に第一幕は Щелкунчик [The Nutcracker]『くるみ割り人形』の男女を入れ替えたよう。 Clara が The Nutcracker (実は王子様) を助けるように、浦島太郎が亀 (実はお姫様) を助け、 お礼にお城に連れられ、歓迎の宴でユーモラスなディヴェルティスマンという構成でした。
第2幕の前半の四季を描く「季の庭」の場面もディヴェルティスマンとも言えるかもしれませんが、 余興的なものではなく、四季の美しさだけでなくその「移ろい」というこの作品の主題でもある「時間」も描いており、 視覚的な美しさといい構成の妙といい、この映画の中で最も良いと感じた場面でした。 玉手箱を開けた浦島太郎が老いて終わるというエンディングではバレエ作品的には地味になりそう、と思っていた所、 そこから、老人ではなく翁になって、さらに鶴 (浦島太郎) 亀 (亀の姫) で長寿を寿ぐ大団円。 若干強引に感じましたが、エンディングでの盛り上がりの余韻も楽しめました。
『NINJA』で観たフロアへの映像プロジェクションマッピングとダンサーの絡みが見事だったのですが、今回もそれが堪能できました。 フロアのプロジェクションマッピングを観たくて2階席を取ったのですが、その甲斐がありました。 群舞と映像の絡みでの波の表現、フロアを広くとって「季の庭」での四季を表す映像など、見応えありました。
十分に楽しんで観たのですが、やっぱり『NINJA』のような軽妙洒脱な作品を観たい、 なんて思っていたら、会場配布のフライヤーの中に 『星の王子さま』 (KAAT神奈川芸術劇場, 2020年11月) を見つけました。 クリエイティヴ・スタッフも出演も良さげで、これは大変に楽しみです。
2月28日に新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため主催公演等中止した後、 やっと再開に漕ぎ着けての新作公演。 自分も劇場に足を運んだのは2月29日から約5ヶ月ぶり。 まだまだ気の抜けない、むしろ再び悪化しそうな状況で、 客席も厳重対策下でしたが、 こうしてまた劇場で上演を観れたという感慨で、カーテンコール中、ちょっと目頭が熱くなりました。 自分も感染対策の大きな制約の中で仕事を進めることに苦労しているだけに、この状況下で新作のクリエーションは大変だったろうと。 しかし、結局、新国立劇場に勤務する業務委託者に新型コロナウイルス感染者が出てしまい、 千秋楽を迎えることができませんでした。 新国立劇場のバレエ公演の規模となると関わる人も多く、 もやは、そのうち一人が感染する確率は無視できないほど大きくなっている感染拡大状況で、 観客だけでなく出演者、スタッフも守りながら公演をすることは多難だと、思い知らされました。