Mercedes-Benz Art Scope は、1991年に始まった 日独の現代美術作家を交換でレジテンス派遣するメルセデス・ベンツの文化・芸術支援活動の一つです。 2003年以来、数年おきに原美術館で報告展が開催されていますが [前回の鑑賞メモ]、 その2018-2020年版を観てきました。
最も印象に残ったのは、最も広い1階のギャラリーIIを使った 久門 剛史 『Resume』 (2020)。 壁や床に少し浮かせて伏せられた50の木製パネルの蛍光塗料の塗られた面の色が、 無骨な裏側を晒すパネルの端から反射でうっすら白壁や白タイルに漏れる様に、 ささやかで控えめな美を感じました。 自然光の展示で、窓から日が差し込んだり、雷雨で日が陰ったりで、明るさ色合いが変わるのも良かった。 奥のサンルームでは高周波の純音を使ったサウンドインスタレーションがあったのですが、 色の漏れと音の漏れを対比しているようにも感じられました。
2階奥の広めの2つのギャラリーでは、小泉 明郎 『Anti-Dream #1』 (2020)。 iPod で単調に語られるナレーションを聞いて想像することで鑑賞する彫刻作品、といったところでしょうか。 手前のギャラリーは全く素の状態のまま、 奥のギャラリーは窓を塞いで真暗とした中ですっすらとスモークを焚きムービング・ヘッド・ライト2台を並行して動かしての強い光のインスタレーションをしていました。 こういう演出のインスタレーションは結構好みではありますし、両極端に振ったのだろうとは思うのですが、 素の状態のままのギャラリーではいかにもコンセプチャルな作品という感じですし、 ムービング・ヘッド・ライトはギミックが強すぎに感じられてしまいました。 もう少しさりげない仕掛けの方が良いかもしれないと思ってしまいました。
キプロスのニコシア出身でベルリンを拠点に活動する Haris Epaninonda は 原美術館とも縁のあったという 吉村 弘 の環境音楽を使ったインスタレーション Untitled #01 b/1 (2020) と 映像作品 Japan diary 『日本日記』 (2020) という文化・芸術支援活動の趣旨に沿った日本に題材と採った作品を出展していました。 が、作品としては少々すれ違ってしまった感がありました。
1938年築のモダンな洋館を改装して1979年にオープンした原美術館も、 建物自体の老朽化のため、 次の展覧会『光―呼吸 時をすくう5人』 (2020/09/19-2021/01/11) を最後に閉館が決まっています。 雷雨が通り過ぎるのをカフェで待ちつつ、最後の展覧会は混雑するだろうし、 このカフェでのんびり過ごすことも、もしかしたらこれが最後になってしまうかもしれないな、と、 感傷に浸ってしまいました。